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まっちゃん部長日記part26【練習試合 日体大×帝京大】
『“引退試合”の4年生の思いも。帝京大戦で固まったチーム一丸「絶対に勝つ!」』
絶対に負けられない、その決戦まであと1週間。ポカポカ陽気の12月9日の土曜日。雲一つない青空の下、大学日本一の帝京大グラウンド(日野市百草)で、日体大ユニコーンズの『信頼』の花が咲いた。
関東大学対抗戦Bグループ(2部)1位の日体大はAグループ(1部)8位の成蹊大との入れ替え戦(17日・熊谷ラグビー場)に向け、大学日本一の帝京大の胸を借りた。日体大は、Bグループではほとんどワンサイド勝利を重ね、7戦全勝とした。ただ、BグループとAグループとではプレーの強度も試合のレベルも大きく違う。
けが人が出るリスクを負っても、Aグループ優勝の帝京大と練習試合をし、そのプレーの強度を肌で感じておきたかったのだった。ここで相手に挑みかかる気概、すなわち挑戦心をかき立てておくのだ。実は秋廣監督ら首脳陣は4年生から要望を受けていた。入れ替え戦に出場しない選手も含め、4年生をすべて試合に出してほしいと。
◆記念の“引退試合”。4年生の朽木「ラグビー人生を締めくくる良いタックル」
首脳陣は学生の願いに応えてくれた。入れ替え戦のメンバー以外の4年生にとっては、これが“引退試合”となった。練習試合はメンバー全員を替えながら40分ハーフの3本だった。最後の3本目のラスト5分、ずっと裏方でチームに貢献してきた学生コーチ(分析)の4年生、朽木泰智くんが交代出場した。
細身の4年生は懸命に走った。からだを張った。猛タックルをごつい帝京大選手に浴びせた。ナイス・タックル! 見ていて涙が出そうになった。スタンドの朽木くんの母親も何か感じるものがあっただろう。
朽木くんは試合後、母親のそばで少し照れながらも、しみじみと漏らした。
「ラグビー人生、7年間を締めくくる良いタックルが最後にできてよかったです」
◆伊藤主将「勝てて終われたことはプラスに」
1本目のハーフ40分は、日体大の主力メンバーが帝京大に挑んだ。相手は、主力ではなかったけれど、個々のフィジカル、スキル、スピードには驚くべきものがあった。キックオフ前、伊藤拓哉キャプテンは円陣でこう、大声を発した。
「チームで勝ち切るぞ!」
日体大ボールのキックオフ。まず白色ヘッドキャップのナンバー8、伊藤主将がシャニムニ走って相手をつぶしにいった。1年生フランカーの家登正旺くんがジャッカル。みんな、よく前に出てタックルをした。前半7分。マイボールスクラムから伊藤主将が右に持ち出し、右オープンに展開。最後は、4年生のSO小田晴陽くんから4年生WTBの中村元紀くんにつないで右隅に先制トライを挙げた。SH小林峻也くんが難しい位置からのゴールキックを蹴り込んだ。
FB大野莉駒くんのキックがよく伸びる。けがから復帰したロックの岸佑融くんがボールを追う。またも伊藤主将がビッグゲイン。SH小林くんがPGを加え、10-0とした。
試合後の伊藤主将の述懐。
「自分たちが理想としている形で試合に入れました」
ひたむきだった。よく走った。束となってタックルした。その後、帝京大に3トライを許したものの、日体大もドライビングモールなどから2トライをもぎとり、最初のハーフは、日体大が22-17で折り返した。
伊藤主将はこう、言葉を足した。顔には充実感があふれる。
「ハーフですけれど、(1本目が)勝てて終われたことはプラスに考えたい。来週に向けて、いい練習、そしていいゲームメイク、タイムマネジメントができればいいと思います」
◆帝京大・岩出顧問「真面目に走っているね」
日体大OBで帝京大を長年率いてきた岩出雅之顧問はこう、母校の日体大を評した。言葉に後輩を想う愛情が満ちる。
「みんな真面目に走っているね」
最高の褒め言葉だろう。あきらめずに懸命に戻ってのゴール前でのタックル、ひたむきに前に出てのチャージは、真面目に走ったからこその結果だった。
加えていえば、シーズン終盤にこういう貴重な練習試合をつくっていただいた帝京大の方々には感謝しかない。岩出さん、相馬朋和監督、ありがとうございました。
日体大は2つ目のハーフ、3つ目のハーフでは、帝京大に圧倒された。日体大の選手層の薄さが明らかになった格好である。
◆胸打つ4年生の全力プレー。野尻「すごく楽しかった」
それでも、スタンド席の日体大部員たちには活気があった。
チームメイトに大声で声援を送り、好プレーには喝采を浴びせた。帝京大にトライを奪われても、さほど気落ちする空気はなかった(部長はノートをスタンドの手すりにぶつけ、ひとり悔しがっていたが…)。
ドラマティックだったのは、この日が最後の試合となる4年生に熱い声援が飛んでいたことだろう。最後の3本目ハーフのラスト5分には、学生トレーナーの4年生、野尻涼太郎くんも交代出場した。
野尻くんは高校時代、野球部だった。これが最初で最後の大学での試合プレーとなった。宝物の5分間。「楽しかったです」と4年生トレーナーは漏らした。
「ずっと仲間のプレーをそばで見ていて、いつか自分もラグビーをやりたいなと思っていました。やってみると、やっぱり、すごく楽しかった」
カメラを向けると、右手でガッツポーズをつくった。
「あとは、自分はチームを支えるだけ。来週は勝ち切ってほしい」
◆湯浅HC、伊藤主将「必ず、勝ちましょう」
グラウンドに円陣がつくられた。ぎゅっと輪が縮まった。ああ、ここに信頼がある。
秋廣監督はこう、言った。
「みんな、タックルに入って、気持ちを見せてくれた。最後は気持ちだと思うんだ。最後5日間、いい準備をして、やっていきましょう」
湯浅直孝ヘッドコーチはこうだ。
「入れ替え戦に勝つのがことしのチームの目標だと思う。残りの日々をそれだけにフォーカスして、ひとつになって、やっていきましょう」
ひと呼吸おいて、こう言葉に力を込めた。
「必ず、勝ちましょう」
伊藤主将がつづく。
「最後の4年生のプレーを見て、下級生は感じるものがあったと思う。試合(入れ替え戦)に出るメンバーが、今日が最後の4年生のプレーをどう感じたか。このチームで一緒に練習ができるのはあと1週間。全員で最後、勝ち切りましょう!」
決戦へのカウントダウンが始まった。ひりひりする緊迫の時間が始まる。いざ若者の熱血をたぎらせよ。
(松瀬学)
①〜③は「撮影:松瀬学部長」、④〜⑥は「撮影:保護者・矢部優子さん」⑦〜⑰は「撮影:保護者.大野清美さん」