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2024.05.15.

まっちゃん部長日記part2 関東大学春季大会「立正大×日体大」

『母への感謝を胸に。成長途上の日体大、2連敗にも成長の跡を示す』

 

 母の愛情は海より深く、山よりも高い。へたくそ詩人と呼ぶなかれ、ラグビー選手を見たら、そう思うって。母の日の5月12日、日体大は母親への感謝を胸に立正大と戦った。26-34の苦杯。惜しくも2連敗となりながらも、若者たちは成長の跡は示した。

 

 ◆萩原主将「いつも支えてくれて“ありがとう”です」

 

 「いつも支えてくれて“ありがとう”です」。日体大主将の萩原一平はそう、照れた。埼玉県熊谷市の立正大グラウンド。周辺の森から白い小さな綿毛がふわふわ飛んでくる。スタンドには、全国各地から応援に駆け付けた日体大部員の母親の姿が目に付いた。

 そういえば、ふと思い出す。遠い遠い昔。自分の大学3年の時、東京の国立競技場、今は亡き母親が借金をして福岡から列車で初めて試合を見に来てくれた。うれしくて、うれしくて。かあちゃんにいいところ見せたくて、死にもの狂いで頑張ったっけ。

 

 ◆キーワードは『パブ・ファイト』

 

 関東大学春季交流大会の第2戦。先週、青学大に惜敗スタートを切った日体大はこの1週間、相手にやられたブレイクダウン(ボール争奪戦)を強化してきた。『パブ・ファイト』が試合のキーワードだった。秋廣秀一監督によると、パブ(酒場)で酔っぱらった連中に絡まれた仲間を助けるため、相手を排除するイメージだそうだ。つまり、ブレイクダウンで2人目、3人目が相手を激しく払いのける動きを指すのだ。

 キックオフ直後、ペナルティーをもらってタッチキックで敵陣深く攻め込んだ。ラインアウト。これを好捕し、右に左に展開する。ブレイクダウンの球出しのテンポがよかった。最後はラックの左サイドを成長株のナンバー8、岡部義大が持ち出して、右中間に飛び込んだ。先制トライ!

 スタンドには栃木から来られた岡部のご両親の姿もあった。息子の活躍に喜ばれたことだろう。よかオトコの岡部は試合後、言った。「いい試合を見せられたらよかったんですけど。勝ちたかったです」と。

 「局面全部で負けていたわけではなく、勝っていた局面もありました。敵陣に入れば、しっかりトライはとれていました。ただ、フォワード戦と連携ですね。小さなミスを無くしていければ、試合に勝てると思います」

 

 ◆パブ・ファイト賞のテビタ「がんばりました」

 

 日体大をアクシデントが襲う。

 オレンジジャージの立正大の選手はFWもバックスもフィジカルが強かった。体格も日体大より大きい。ボールを持てば、どがん、どがんとぶち当たってくる。前半10分、波状攻撃からトライを許した。

 この一連のプレーの際、好調だったスタンドオフの愛称マヌことラコマイソソ・イマニエルが頭部、顔面を強打して地面に倒れた。大丈夫か。担架で運び出された。負傷退場せざるを得なかった。とくにスタンドの僕のそばにいらっしゃった母親、父親の心中は察するに余りある。

 日体大のブレイクダウンは改善されていた。いい。とくにディフェンス。誰もがからだを張っている。1人目のタックル、2人目、3人目の寄り。守りがいいと、アタックにテンポが生まれる。前半20分。右オープン展開。トンガ人留学生のテビタ・タラキハアモアがディフェンスラインを割って出た。30メートルほど豪快に走り、トライをもぎ取った。

 この試合、活躍した実直なテビタは試合後、『パブ・ファイト賞』をもらった。左目の下に血筋の跡がついたトンガ人留学生は、「うれしいです」と笑った。がんばったね、と声をかければ、「はい。えっと、がんばりました」

 

 その2分後、今度はウイングの原田来紀が巧みなステップで相手の4,5人の抜き去り、約50メートルを走り切った。ビューティフル! これでスコアは19-5となった。

 でも、ここから、スクラムが押され出す。ゲームの流れが変わる。スクラムで相次ぎ、コラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられた。3連続でトライを奪われ、19-24で前半を折り返した。

 

 ◆スクラムで苦戦。でも、チャレンジする気概。

 

 日体大の課題はスクラムである。

 フロントロー陣にけが人が相次いだ。フッカーの萩原主将の両サイドには、フッカーだった藤田幹太が左プロップに入り、1年生でプロップ経験がほとんどない愛称トムことパエア・レワが右プロップに入った。いわゆる“急造フロントロー”だった。

 これは厳しい。でも佐藤友重スクラムコーチはポジティブだ。昨今のスクラムはまずはヒット勝負だ。

 「プロップ陣とロック陣のコネクトがずれていたので、そこをしっかり修正できれば、もっといいヒットを生み出せます。何といっても、学生にチャレンジする気概が見えます。足りないものをひとつひとつ埋めていきたい」

 

 ◆懸命の追い上げも届かず

 

 後半開始直後、自陣ゴール前の相手ボールのスクラムを押し込まれて、トライを奪われた。19-31とリードを広げられた。でも、ここから反撃した。

 ゴール前のピンチを何度もしのぐ。とくに大竹智也、楳原大志の両フランカーの猛タックルは見る者の胸を熱くしてくれた。センター勝目龍馬のファイトも。

 フルバック(FB)大野莉駒(りく)のキックはよく伸びる。鋭いランもいい。後半20分。スピーディーなライン攻撃を連続し、この大野からナイスタイミングでパスを受けた楳原がディフェンスのギャップをうまく突いて、右中間にトライした。大野がゴールを確実に蹴り込み、26-31と追い上げた。

 ワントライ(ゴール)で逆転となる。勝負のラスト20分である。ここで力ずくの立正大に対してペナルティーを連発し、陣地をおおきく奪われる。小さなハンドリングミス、判断ミスも相次いだ。

 ラスト3分。またも自陣でPKを与え、ペナルティーゴールを蹴り込まれた。26-34の8点差。ああワントライ(ゴール)では届かなくなった。万事休す、である。

 

 ◆秋廣監督「よくがんばったなあ」

 

 秋廣監督は開口一番、「よく、がんばったなと思います」と漏らした。

 「ま、チームの成長はゲームに出ました。スクラムがよければ、もっとチームは上にいけることがわかりました。今日は“初心者”のスクラムだったんで。スクラム強化は地道に継続してやっていきたい」

 確かにスクラムで言えば、彼我の経験値の差をみれば、スクラムは“電車道”で押されてもおかしくなかった。でも、意地で踏ん張った。耐えた。押されながらも、ガマンした。

 だから、スコアも僅差で終わった。秋廣監督は小声で言葉を足した。

 「このスクラムの劣勢で僅差。そこの力をあげていければ」

 

 ◆課題はスクラム、ゲームマネジメント

 

 湯浅直孝ヘッドコーチの表情も明るかった。練習でやってきたことが試合に出たからだろう。とくにブレイクダウンのディフェンス。何本かブレイクダウンでのターンオーバーもあった。スピーディーなアタックも。

 「強くはなっていると思います」

 もう一度、萩原主将。スパイクを脱げば、5本指のインナーソックスをはいていた。これっていいの?と聞けば。

 「はい。うしろにグリップもついているので、足元が滑らないのです」

 課題は。

 「スクラムでしょう。フォワードは普段の練習からもっと積み上げていかないといけません。一朝一夕(いっちょういっせき)でよくなるものじゃないので、日々、努力を重ねていくしかありません」

 加えて、課題はゲームマネジメントか。とくにエリアマネジメント。萩原主将はこうも反省した。

 「自分たちで自分たちのクビを締めているようなところがありました。エリアを意識して、もっと堅実なプレーを選ぶべきところもありました。自陣から無理に回していって、裏目に出たところがありました。蹴るところは蹴る、回すところは回す、と」

 

 ◆恩師に感謝。辰己「結果で恩返ししたい」

 

 どのチームも春のシーズンは、勝敗よりもチームの成長を重視していることだろう。

 日体大の4年生部員は教職課程を履修している学生が多い。来週あたりから、教育実習でラグビー部を離れることになる。毎年のことだろう。でも、あえていえば、チームの層を厚くするチャンスでもある。

 

 そういえば、グラウンドには日体大柏高校の前ラグビー部監督の河北先生も日体大の応援に来られていた。教え子が何人も試合に出ていた。

ウイングの辰己一輝は母校の日体大柏に教育実習に行くことになっている。受け入れの担当が河北先生。

辰己は河北先生に感謝している。「ラグビーを始めさせてくれた恩師ですから」。試合後、先生の横では少し緊張気味だった。言葉に実感をこめた。

「ことし、試合でいい結果を見せたい。結果で恩返ししたいんです」

有望株のトムも日体大柏出身。

トムは言葉に力をこめた。

「もうちょっと足りないものがある。そうそう。練習です、もっと練習です」

成長の春。若葉の5月。新緑の中に立つラガーたちはまぶしいのだった。

            

写真:①~⑤が大野清美さん、⑥~⑨が岸健司さん、⑩は松瀬部長

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