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まっちゃん部長日記Part3 関東大学春季大会「日体大×関東学院大」
『着実な成長見せたチャレンジャー。2年、3年主体の日体大が大勝で2勝2敗』
勝つっていい。勝つと、みんながハッピーになる。関東大学春季交流大会第4戦。6月2日の日曜日。対抗戦1部に復帰した日体大が、10トライの猛攻で、同じようにリーグ戦1部に復帰した関東学院大に68-24で圧勝し、2勝2敗とした。いいぞ、いいぞ。チームの成長を実感できる内容もあって、雨に濡れながら、部員たちの笑顔がはじけたのだった。
◆先発メンバーで唯一4年の岸佑融「チームを引っ張っていかないといけない」
しかも、萩原一平主将ら数多くの4年生が教育実習で不在だった。先発メンバーで4年生は、ロックの岸佑融(ゆうすけ)ひとりだった。ほとんど3年生がチームを引っ張った。献身プレーとタックルのファイトマンは試合後、言葉に充実感を漂わせた。
「スタメンで4年生がひとりだったので、チームを引っ張っていかないといけないと思っていました。勝ててよかったです。でも、まだまだ。僕としては、タックルとボールキャリーの回数を増やしたい」
立場と責任感が若者の成長を促進させるのだろう。この日の岸はまるで覚醒したかのような激しさだった。191センチ、106キロ。プレーにすごみが加わった。
スタンドの父も柔和な笑顔をつくった。ただ、愛息のプレーの感想を聞けば、「まだまだですよ」と辛口だった。
「まだワイルドさが足りないでしょ」
◆『ブル・ファイト』と『パブ・ファイト』
試合会場が、本拠の横浜市青葉台・日体大健志台キャンパスのラグビー場だった。そして、『ブル・ファイト』と『パブ・ファイト』、この2つが試合のキーワードだった。ともにブレイクダウンでの苛烈なプレーを指す。ディフェンスではブル(闘牛)のように猛々しくファイトする。アタックでも、パブ(酒場)で酔っ払った連中に絡まれた仲間を助けるかのごとく、相手選手を激しく排除する。
秋廣秀一監督がこう、説明してくれた。
「ブレイクダウンで勝つことを目指しました。ブル・ファイトとパブ・ファイト。とくに2人目の激しさを意識してもらいました」
この日の数値目標は、ブレイクダウンにおけるディフェンスのブル・ファイトでターンオーバー(攻守逆転)が「5回」だった。試合では結局、8回もターンオーバーした。ブレイクダウンで優位に立てば、チームにリズムが生まれる。ブレイクダウンからテンポよくボールが出れば、バックス陣のスピードも生きてくる。
前半6分。ブレイクダウンを連取して敵陣深くに攻め込んだ。ラインアウトからドライビングモールで押し込み、ナンバー8の岡部義人(2年)が先制トライ。その3分後には、スクラムのブラインドサイドを岡部が持ち出し、ライン際を好走、内側にフォローしたSH相馬倫太郎(2年)が右から回り込んで、中央にトライした。いずれもFB大野莉駒(りく=3年)がゴールを手堅く蹴り込み、序盤10分で14点を先行した。
◆ファイター賞の家登「ディフェンスに命をかけています」
この日はタックルもよかった。
その後の自陣でのピンチで、1年生のトンガ人留学生プロップ、愛称トムこと、パエア・レワが爆発的なタックルを相手に見舞わせた。家登正旺(かと・まさあき=2年))、三浦海(うみ=2年)の両フランカーが地を這うタックルがいぶし銀の輝きをはなった。
家登は大学入学後、初めて80分間フルで試合に出場した。ブル・ファイトとパブ・ファイトでの活躍が目立ち、秋廣監督から『ファイター賞』をもらった。賞品が100円ぽっちのプロティンバー。「やすっ」と声をかければ、家登は「いや、いや、いや」と慌てて右手を横に振った。「値段ではありません。チームで表彰してくれて、とてもありがたいです」
それにしても、先発バックローは3人とも2年生。みんな、タックルがいい。家登と岡部は「コクトチ」こと國學院栃木高、三浦は長崎北陽台高卒。高校時代から低い姿勢と足の強い踏み込みがからだにしみこんでいる。コクトチにはタックルの応援のかけ声があるよね、と振れば、家登は「鉄のタックルですね」と言った。
いや、「鬼のタックル」ではなかったか。コクトチの応援席の「鬼の、鬼の、鬼のタックル」と聞いたことがある。そういえば、笑って訂正した。
「そうです、そうです。鬼のタックルです」
言葉を足す。
「僕はアタックよりディフェンスに命をかけています。とくに1対1のタックルにこだわっています。今日は、その部分で持ち味を体現できたかな、と思います」
家登は1年生の最後の入れ替え戦で公式戦に初出場。2年になってスタメンに名を連ねたが、途中交代を余儀なくされてきた。先の拓大戦ではラスト2分で交代。あと2分。だからだろう、フル出場に「めちゃくちゃ、うれしい」とわらった。
◆湯浅HC「ちょっとずつ、ちょっとずつ、階段をのぼっている」
前半はその後、日体大のトライラッシュとなった。
前半18分、ゲームキャプテンを務めた3年のCTB川越大地が相手ディフェンスラインの裏に絶妙のキック。これをFB大野が捕って快足を飛ばし、フォローしたSO五味侑也(ゆうや=2年)が中央に飛び込んだ。25分には、プロップのトムが爆走。フォローしたSH相間が中央にトライした。その5分後、今度はロックの岸がぶちかましで相手を吹っ飛ばした。ナイス! 突進。SO五味につないでトライを加え、前半35分にはトンガ人留学生のロック、テビタ・タラキハアモアが191センチ、110キロの屈強なからだを生かし、約30メートルを走り切った。
前半終了直前にはCTB石田史堂(しどう=2年)がポスト下に飛び込んだ。なんと、47ー0の大量リードで折り返した。
湯浅直孝ヘッドコーチも満足顔だった。なんといっても、この1週間、ディフェンスのラインスピードを徹底してやってきた。「それが、はまった」と漏らした。
ただ、後半は、関東学院大が予想通り、アタックで大外に振ってきた。湯浅HCは予想していたと振り返る。
「その時、だれがどうするのかが、次のステップでしょう。バックス同士のコミュニケーション、そして(ディフェンスを)流すのか、上がるのか、練習がまだ足りてなかったですね」
後半は3トライを追加しながらも、関東学院大に4トライを奪われた。課題は見えた。「でも」と湯浅HCは前向きだった。「勝って反省」は指導者の理想だ。
「(初戦の)青学大からスタートして、時間が限られている中で、ひとつずつ、課題をつぶしてきました。ちょっとずつ、ちょっとずつ、(階段を)のぼっているのかなと思います」
◆練習の雰囲気を変えた学生コーチの喝
実は、このウィークの練習初日、こんなことがあった。
拓大に勝った後だったからか、主力の4年生や秋廣監督らが不在だったからか。炭酸が抜けたコカ・コーラのごとく、練習に気合が入っていなかった。そう見えた。ふわっとした空気を察し、学生コーチの本間正悟が声を荒げた。
「おまえら、こんなんでいいのか」
部員たちの練習態度に緊張感が加わった。3年生、2年生の目の色が変わった。覚悟である。自分たちはチャレンジャー。からだを張らないと相手には勝てない。この1週間で、チームが少し変わった。
秋廣監督はこう、試合を総括した。
「3年生以下が主体のチームで勝ったのはよかったと思います。チームの底上げです。それが、選手たちの、そしてチームの成長につながっています」
◆キレキレプレーの大野莉駒「今日は自分たち3年がやらないと」
それにしても、FB大野のプレーはキレキレである。惚れ惚れする。
瞬発力ゆえの瞬間ダッシュから、相手スペースを逃さず突く鋭利するどいラン、スピーディーなパス、的確なキック…。
大野は日体大そばの桐蔭学園高時代のポジションはSOだった。いまは、FB。「オモシロいです」と愉快そうだった。
「ランが好きで、結構、自由なので。自分でゲインして、プレーで見せるしかないと思っています。ひたすら、ゲインライン突破、ゲインライン突破で」
3年生の歓喜の輪ができた。
大野は言った。
「今日は自分たち3年がやらないといけませんでした」
◆いろんな人に応援されて
ところで、保護者たちも応援にかけつけてくれている。差し入れもある。岸の父親からは、買い替えで使わなくなった上等な望遠付きカメラまでラグビー部の記録のために、と寄付していただいた。
トムやテビタらのトンガ人留学生や豊嶋優希(2年)の母校、日体大柏高の前ラグビー部監督の河北先生もスタンドに来られていた。いま、ウイングの辰己一樹(4年)が教育実習でお世話になっている。
河北先生からは、大量のスポーツドリンクパウダー(粉末)を差し入れていただいた。雨模様の中、ラグビー場に来ていただいた部員の保護者、恩師、学友、みなさん、ありがとうございました。
そうそう。僕の日体大の濃紺色のブレザーの左胸にはニッタイのエンブレムが刺繍で付いている。その下の胸ポケットには、旧友からもらった東京・亀戸香取神社の『勝守』が白色、黒色のふたつ、入っていた。
いろんな方に応援されるチームはきっと、強くなる。まだ、鍛錬の春じゃないの。まだまだ、これからなのである。
繰り返すけど、僕らはチャレンジャー。
(松瀬 学)
1〜5枚目は森屋朋子さん、6〜12枚目は渡邊祐子さん撮影