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2024.10.21.

まっちゃん部長日記part12 @「待望の初トライ、日体大に光明―筑波大に敗れて4戦全敗」

 ようやくである。ようやく、日本体育大学が4試合目にして、初めてトライを奪った。日体大応援のラグビースクールの子どもたちの大歓声が強風にのる。「ワアアア~」「ヤッタア~」「ニッタイダイ! ニッタイダイ!」。なぜか、涙がにじみ出てきた。

 日曜の10月20日、晴天下の神奈川県大和市の大和スポーツセンター競技場。気温18度、風速4メートルの強風下にも、スタンドには地元の大和ラグビースクールの子どもたちが130人ほど陣取った。試合前には、日体大のノンメンバーたちによるラグビークリニックを受けた。そのちびっ子ラガーたちの手拍子と声援が日体大を後押しした。

 「ニッタイ、ニッタイ!」

 「がんばれ、ニッタイダイ!」

 「負けるな、ニッタイダイ!」

 相手が、昨季、関東大学対抗戦4位の筑波大だった。個々のフィジカル、コンタクトの強さに圧され、前半は7トライを奪われて0-50で折り返した。またも「100ゲーム」を許すのかと心配したが、風上の後半は勢いづき、トライ数が1本対2本、スコアは7-12と健闘した。結局、7-62で4戦全敗となったけれど、明るい光が見えたのだった。

 

 ◆トムが初トライ、猛タックル「うれしかった」

 

 起爆剤は愛称「トム」ことパエア・レワだった。

 トンガからの留学生の1年生。185センチ、120キロの頑丈なからだ。ファイトの塊。闘志あふれる風貌。けがが治り、ようやく戦列復帰した。この日は大事をとって、後半の頭からピッチに立った。大きな背の背番号「18」はまずロックのポジションに(その後、プロップに移った)。

 「流れを変えたのはトムでしょ」。この日、選手たちへの指示を直接伝えることができるウォーターボーイ役に入った湯浅直孝ヘッドコーチ(HC)は言った。

 「心の拠り所というか、心強いやつが入ってきたぞと。みんなの気持ちが変わった。トムについていけばやれるぞって」

 風上の後半。

 相手キックオフのボールを自陣深くのエリアでキャッチし、SOの愛称「マヌ」ことラコマイソソ・イマニエルが敵陣深くまで蹴り出した。風にも乗った。ナイスタッチキック!。相手ボールのラインアウトをフランカー家登正旺がスティールし、FWが前に出る。実直なプロップ吉田伊吹も突進。相手のペナルティーを誘った。

 このPKを、マヌが敵のゴールライン直前のタッチライン外まで蹴り出す。マイボールのラインアウトでロック岸佑融が好捕し、日体大がドライビングモールを形成してグリグリ押し込んでいく。モールが止まったところで、フッカーの萩原一平主将が右サイドに持ち出した。タックルで阻まれる。ラックをつくっては、フランカー家登が、ロックのトムが、プロップ吉田がサイドを立て続けに突いた。地味ながら、フランカー大竹智也のサポートプレーが効いていた。

 後半4分。最後は、トムがラックの右サイドをパワフルに押し出し、上体をぐいと伸ばしてボールをゴールライン上に付けた。レフェリーが笛を吹き、右手を挙げた。待望のトライである。今シーズン284分目にして、ようやく敵ゴールラインを割った。

 トムは試合後、芝生にでんと座り込んで、顔をくしゃくしゃにした。

 「トライ、うれしかった」

 このトライで乗ったのか、直後、相手をメガトンパンチのごとき猛タックルでぶっ飛ばした。「ドッガーン」。そんな音がスタンドまで聞こえてきそうだった。

 タックル、すごかったね、と声をかければ、トムは涼しげな顔をつくった。

 「はい。まあ、気持ちいいです」

 ひと呼吸おいて、真顔でつづけた。

 「これから、これから」

 

 ◆後半はブレイクダウンでファイト。湯浅HC「もっともっと」

 

 ハーフタイムで戦い方が少し、修正された。

 日体大はブレイクダウンでファイトするようになった。ここで前に出られれば、ディフェンスラインを押し上げることもできる。湯浅HCは述懐する。

 「前半は、接点での気持ち負けがたぶん、あったんでしょう。そこに対してのファイトが足りなかった。だから、食い込まれて、オフサイドラインを下げられて前に出られなかったんです」

 だから、後半はブレイクダウンでみんな、ファイトした。前に出た。そうなると、相手にもミスが出始めた。ラグビーはオモシロい。要はバトルなのだろう。

 湯浅HCは言葉を足した。

 「接点の二人目のファイトというところも、もっともっとやっていかないといけない」

 

 ◆秋廣監督「前半の入りが悪すぎた」

 

 前半は、後半と対照的だった。

 秋廣秀一監督は「前半の入りが悪すぎた」と漏らした。

 強風下、風下だったこともあろうが、ブレイダウン、コンタクトでも圧倒された。同監督は声を落とした。

 「前半はブレイクダウン負けでした。相手の寄りがはやかったです。二人目も三人目もはやくて…。こちらは淡泊でした」

 でも、と言った。

 「これは意識すれば、改善できると思います。二人目がプレーを見ていて、入りが遅いケースがあります。味方にパックして、ドライブするような気持ちでいかないと」

 

 ◆最悪の立ち上がり。ミスから、あっさり相手にトライを献上

 

 最悪の立ち上がりだった。

 相手ボールのキックオフ。直後の日体大ボールのラインアウト。そのスローイング直前、スパイクシューズのひもが切れた。萩原主将は「びっくりした」と振り返る。

 試合は中断され、萩原主将はスパイクを取り換えた。何が起きたのか? 嫌な空気が流れた。このラインアウトはジャンパーとのタイミングが合わず、萩原主将の投じたボールは後ろに転がった。相手ボールとされ、ロングキックを蹴り込まれた。

 自陣深くに下がっていたFB古賀剛志がキャッチし、左にフォローした愛称「トニー」ことトアニトニ・キオカタにパス。トニーは右手だけでボールを抱え、巨体を生かして強引に突進していった。蹴り返せばいいのに、と思った瞬間だった。

 筑波大の好ウイング、大畑亮太にボールを奪われ、そのまま右隅に飛び込まれてしまった。わずか3分。あっさり、相手に先制トライを献上してしまった。

 これで、筑波大を勢いづかせてしまった。日体大はワークレートで劣勢となり、コンタクトエリアで当たり負け、ディフェンスラインも受けに回り、相手のSO楢本幹志朗やスピードがあるバックスリー(両ウイング、FB)に走り回られてしまった。

 

 ◆湯浅HC「どうすればいいのかが、選手たちの中でも見えた」

 

 収穫と課題。

 スクラムはほぼ安定していたが、ラインアウトは前半、うまくいかなかった。

 課題として、こぼれ球の反応で後手を踏んでいた。鋭く反応していたのは、フランカー大竹とナンバー8岡部義大くらいか。とくに大竹のセービングはキラキラッと光っていた。

 課題は加えて、イーブンボールへの反応、ブレイクダウンの改善、二人目、三人目の寄り、アタックの継続…。

 萩原主将は言った。

 「前半は風下という環境的要因もありましたが、やっぱ、フォワードもバックスもいつもと違うプレーをしてしまいました。後半みたいに、自分たちのやることにしっかりフォーカスしてやれば、互角に戦えます」

 湯浅HCもポジティブに前を向く。

 「終わり方としては、自分たちがどうすればいいのかというのが、選手たちの中でも見えたと思います。そこはまあ、よかったのかなと。後半、なぜ、よかったのかを分析して、チームに落とし込んでいきたい」

 

 ◆地元ラグビースクール出身の大竹「僕の中では頑張りました」

 

 この試合の「MIP(モストインプレッシブプレーヤー)」には鋭利するどいランを何度も見せたウイング原田来紀が選ばれた。

 ただ、印象的な選手といえば、トムと大竹も、だろう。

 大竹は、地元の大和ラグビースクール出身。この日は後輩のちびっ子たちと父親の声援を力にした。ひたむきなタックル、からだを張ったセービング、無尽蔵のワークレート。

 芝生に座って、スパイクを脱いでいる大竹に声をかけた。「ナイス・セービング」と。その途端、顔をくしゃくしゃにした。

 「はい、僕の中ではがんばりました」

 100点?

 「いや、80点ぐらいでしょ」

 真面目な好漢は前を向く。

 「前半がダメ、でも後半にしっかり修正できました。後半の入りを前半からしていれば、今日の試合は勝てたと思います。これからも、頑張ります」

 どこかニヒル。4年生の大竹は実は過酷なラグビー人生を歩んできた。こんな頑張り屋を僕は知らない。自身の境遇に最善を尽くす人生。敗戦の悔しさをただかみしめて、やがて雪辱を期す。

 自身のために、そしてチームのために。

(筆:松瀬学、写真:岸健司氏、渡邊祐子さん)

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