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まっちゃん部長日記①関東大学春季大会「日体大×成蹊大」
『「よっしゃ~!」。日体大がスクラム押して初陣を快勝で飾る』
たかがスクラム、されどスクラムである。正直、スクラムはラグビーの心臓だと思っている。4月20日の日曜日。新しい2025年度の初陣、関東大学ラグビー春季交流大会にて、日体大はスクラムで成蹊大を圧倒し、59-14で快勝した。
「よっしゃー!」。ふだんは温厚な好漢、右プロップの中野佑晟が、スクラムを押すたびに雄たけびをあげ続けた。115キロの巨体が右アップでがつんと組み込めば、スカイブルーと紺の通称『ダンガラ』ジャージのFWのかたまりがぐいぐいと前に出た。
前半は5本組んだスクラムのうち、3本で相手のコラプシング(故意に崩す行為)の反則をもぎとった。前半終了間際の相手ボールのスクラムなんて、まるで“電車道”で一気に押し崩した。中野は試合後、顔をくしゃくしゃにした。
「春先からこだわってきたスクラムを、試合でしっかり出せてよかったです。ええ、よっしゃー!と吠えまくりました」
秋廣秀一監督も開口一番、こう総括した。
「勝因はスクラムでしょ」
◆理想的なドライビングモールで先制トライ
スクラム、ラインアウトのセットプレーが安定すれば、スタンドのこちらも安心して試合を見ていられる。ここは吉祥寺駅からバスで15分ほどの成蹊大学グラウンド。曇天ながらも、けやき並木から吹いてくる風がほほに心地いいのだった。
午後1時、SO五味侑也が左足でキックオフ。FWが一気に駆け出していく。からだから覇気がほとばしっている。ナンバー8の“九州の暴れん坊”、佐賀工業高卒の2年生、中川内優太が突進する。FWがさっと寄る。フランカーに回った3年生の岡部義大が「手渡しとパスの間」と振り返ったつなぎで鋭くゲインした。
この一連のプレーで日体大に良いリズムが生まれた。直後、ペナルティーキックをタッチに蹴り出し、相手ゴール前の右ラインアウトで天然パーマのロック、石塚翔真がナイスキャッチ。そのままドライビングモールをぐりぐり押し込んで、最後はゲームキャプテンを務めたフッカーの楳原大志・副将が右中間に押さえた。
前半3分だった。早くも先制トライ。FWが前に出れば、SO五味のゲームメイクも冴える。左右に散らし、バックスも鋭利するどいランで敵陣に迫った。前半11分にもモールを押し込んで、最後はフランカー岡部がトライ。さらに25分にはモールを押していって、またも楳原副将がインゴールにボールを押さえた。これで19点を先取した。
この日、武器となったモールの押しには結束と迫力があった。地味ながらも、ロック逢坂侑大の巧みな押しが効いている。
◆楳原ゲームキャプテン「セットプレーやブレイクダウンで日体大の強みを出せた」
楳原副将のラインアウトのスローイングも安定していた。試合後、話を聞こうとすれば、「僕、こういうおしゃべり苦手なんです」としきりに照れた。右のつぶれた“ギョウザ耳”からは鮮血が少しにじんでいる。緊張顔で言葉を足した。
「いいスタート? そうですね。自分たちが練習で磨いてきたセットプレーやブレイクダウンで、ニッタイの強みを出せました。これからもセットプレーの安定と強さで春シーズンを進んでいきたいと思います」
◆規律と密集サイドの防御が課題。ペナルティーも連発。
前半28分。押し込んだスクラムの右サイドに持ち出したSHの原田来紀が、相手ディフェンスをピュッピュッと鋭く切り裂いて、約20メートルを走り切って中央にトライした。ウイングが本職のナイスガイ。これで26点の大量リードとなった。
ただ、気持ちが緩んだのか、ここから、ペナルティーを4本、連発した。ハイタックル、オフサイド、オフサイド…。自陣ゴール前に攻め込まれ、密集サイドを立て続けに突かれて、前半37分、ついにトライを許してしまった。フェーズを重ねられるとディフェンス網がバラバラになっていく。ゴール前の密集サイドのディフェンスは課題である。
◆大野莉駒主将が交代出場。あいさつ代わりのトライ。
後半6分、故障から復帰した大野莉駒・主将がフルバックで交代出場した。相変わらずの切れ味、瞬間ダッシュだった。後半15分、ウイング重見竜之介からリターンパスをもらって右隅にトライ。その後も大きくゲインし、ナンバー8中川内のトライにつなげた。
エリア取りでいえば、途中交代出場の「マヌ」ことラコマイソソ・イマニエルのキックはよく飛ぶなあ。
終了直前、またも相手ボールのスクラムを“電車道”で押し込んでコラプシングの反則をもらい、ラインアウトから押し込んで、途中交代のフッカー佐々木柊翔がこの試合9個目のトライをマークした。
最後は、SO五味が左足で外に蹴り出してノーサイド。日体大が初陣を飾った。
チームMVPには五味が選ばれた。
◆大野主将「ボイス・コミュニケーションやクイック・リアクションはまだ…」
成蹊大とは関東大学対抗戦のA(一部)、B(二部)入替戦にて3年連続で対戦してきた。いわば、因縁の対決といっていい。昨年12月の入替戦では、日体大が40-8で圧勝し、A残留を決めていた。スコアはともかく、内容はほぼ同じような彼我の力量差だった。
「ナイス・トライ!あいさつ代わりのトライですか」と声を掛ければ、大野主将は「いや、違います」としきりに照れた。「みんながボールをつないでくれた結果です」
でも、と課題も口にした。シーズン序盤ゆえ、ある程度のハンドリングミスは仕方がないとしても、自身がフィールドに入った後半の戦い方には不満を覚えていたようだ。
「規律の部分だったり、フォーカスしていたボイス・コミュニケーションやクイック・リアクションだったりはまだまだ…。だらだらしている選手がいます。詰めも甘い」
◆湯浅HC「課題は、コミュニケーション」、大竹コーチ「もっとバチバチ」
湯浅ヘッドコーチは収穫と課題を口にした。
「やろうとしてきたのはエリア取りです。シミュレーションを考えながらやってきたので、それはできたのかな。これまでやってきたセットプレーがはまったんで敵陣にいる時間が増えました。それが勝因かなと思います。あとはディフェンスのラインスピード、こちらもこだわってきたところがちょっとは出たのかな。この3つはやろうとしてきたことができたかなと思っています」
ひと呼吸、言葉に力がこもる。
「課題は、コミュニケーションでしょうか。コミュニケーションがない中で、ミスが起きたり、いらないプレーが出たりということがありました。そのあたりをちょっと上げてくれれば、プレーの正確性が出てくるのかなと思っています」
元“鬼のタックラー”、大竹智也・新コーチは「まだ」と言葉を足した。
「タックルの部分では引いているところがあります。もう一度、練習から修正をかけて、次の試合では、もっとバチバチいけるようにします」
◆目標は大学選手権出場、スローガンが『タフ・チョイス』
ことしの目標は「大学選手権出場」である。つまりは、関東大学対抗戦で5位以内に入らなければいけない。スローガンが、「タフ・チョイス」。
大野主将が、先のキックオフミーティングの時、意味を説明してくれた。
「ラグビーの練習でも試合でも、生活面でも、どんな時でも厳しい道だったり、つらい道だったりを選択して、ひとりひとりでも、チームとしても前に進んで目標を達成するということです」
◆新スクラムマシン「タフ・チョイス・パック」も活躍。中林「地獄です」
昨年度の秋の関東大学対抗戦A組は7戦全敗に終わった。最大の敗因はずばり、セットプレーである。マイボールの確保率の7試合平均は、スクラムが69%、ラインアウトは49%というひどい数字だった。これでは、勝利に近づけない。
そこで、セットプレーの強化に努めてきた。とくにスクラム。OB会やキシ・トレーディングの支援を受け、新しいスクラムマシンを購入した。愛称『タフ・チョイス・パック』。スクラム練習の質量がぐっと増えた。
左プロップの「社長」こと、160センチ、97キロの中林勇希がため息をつく。
「今日、手応えをつかみました。練習では毎日、がつがつ組んで、ぐっと強くなる感じです。これまではスクラム練習は楽しかったんですけど、今は地獄です、地獄」
◆新スクラムコーチの木下剛さん「スクラムは綱引きと一緒」
新しいスクラム担当コーチに、京産大OBでNECでも活躍した元日本代表プロップの木下剛さんが就いた。スクラム魂にこだわる熱血漢。
「あまり細かいところは外に出したくない」と苦笑いを浮かべ、「しっかり相手に8人で当たらないと前には出られません」と説明した。
「80分間を通して、いかなるときでも、しっかりスクラムを押すという意識が出来てきたと思います。8人がまとまって前に出られるかというところ、そこがキーになります」
その後、オモシロいことを言った。「スクラムは綱引きと一緒です」と。
「呼吸を合わせて、みんなで引く、いや押すんです」
そういえば、試合の後、日体大と成蹊大のFWによるスクラムセッションが1時間ほど、つづいた。
◆さあ、スクラム、組もうぜ!!!
次の相手は、強力スクラムを看板とする日大(5月4日・日大グラウンド)である。日体大は主力選手が教育実習で抜けるが、だからこそ、チームの総合力が試されることになる。「現在地」がわかる。
秋廣監督は言った。
「日大とか相手のレベルが上がっていった時、スクラムがどのくらい通用するかどうか。楽しみです」
新しい年度がはじまった。チャレンジだ。ワクワクする。
さあ、スクラム、組もうぜ!!!
3年 LO 石塚翔真 2年 NO.8 中川内優太 3年 SO ラコマイソソイマニエル 4年 FB 古賀剛志