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まっちゃん部長日記③「ちびっ子ラガーや保護者の声援も実らず、日体大が中大に敗北」
やはり現実は厳しい。新緑が芽吹く5月18日の日曜日。関東大学ラグビー春季交流大会。日本体育大学は横浜・健志台キャンパスのラグビー場にて、伝統校の中大と戦い、17-31で敗れた。こちらは関東大学対抗戦Aグループ(1部)、相手がリーグ戦Bグループ(2部)。めちゃ悔しい。でも、敗北の重みを実感できてチームの背丈は伸びるのだ。
◆ゲーム主将の3年生、岡部「やってきたことが、全然できなかった」
「やってきたことが、全然、できなかったです」。試合終了後のインゴール。紺色と水色の横縞の日体大のダンガラ(段柄)ジャージの背番号8が、チームメイトがいるグラウンドに背を向け、ひとり両ひざを抱えて座り込んでいた。よくみると、その岡部義大の目元には赤い血のりがあり、目からは涙があふれていた。顔をゆがめ、言葉を絞り出す。
「(スコアが)ビハインドの時、チームの雰囲気を上げられませんでした。悔しくて…。もうちょい、チームを引っ張れればよかったかなと思います」
この日、主将のFB大野莉駒は負傷で欠場。副将のフッカー楳原大志ら主軸の4年生も教育実習で不在だった。代わって、ゲーム主将を務めたのがリーダーシップに長けた3年生のナンバー8、岡部だった。使命感が頭をもたげる。
春の公式戦は残り2試合。
「反則とミスが多かった。そういうところを全員が徹底できれば、もう少し、試合になれるかなと思います。やはりセットプレーが大事ですね。レフェリーとのコミュニケーションももっととらないといけない。キャプテンが、チームとレフェリーの架け橋にならないといけません」
◆ちびっ子ラガーも大声援「ニッタイ、ニッタイ、がんばれ! ニッタイ!」
今季、初めてのホームゲームだった。スタンドには日体大のOBや保護者が陣取った。日体大のグラウンドで時々、練習するラグビースクール『グリーンクラブ』のちびっ子ラガー約100人も声援を送っていた。「ニッタイ、ニッタイ、がんばれ!ニッタイ!」
気温27度。曇天下、あたたかい風が吹く。蒸し暑くて、ストレスがたまる。この日の空模様のようにすっきりしない展開がつづいた。まず、今季好調だったセットプレーがうまく機能せず、リズムに乗れなかった。
◆小柄なプロップ中林が奮闘「コラプシングは僕じゃない」
日体ボールのファーストスクラムでは、コラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられた。日体1番(左プロップ)が「社長」こと小柄な中林勇希(160センチ、97キロ)、トイメンの中大3番(右プロップ)は巨漢の畦地毅(187センチ、126キロ)。メンバー表の数字をみると、身長差が27センチ、体重差は29キロもあった。
相手が上から内気味にのしかかってくる。たまらず、見た目では、中林がつぶれる形となった。どちらが落としたかの判定は微妙ながら、日体大サイドの反則をとられた。
中林は小声で漏らした。
「体格負けしました」
その後、コラプシングの反則はどちらのサイドにも吹かれた。中林としては、自分はスクラムを落としてないと主張する。「僕じゃないですよ」と。
「相手は苦しそうでした。腰や首が痛いみたいで、(スクラムを)ブレイクすると、正直、相手の方がイヤな顔をしていました」
スクラムで大事なことは、FW8人の結束力と対応力である。レフェリーとどうコミュニケーションをとっていくのか、も。
◆ラインアウトでノットストレートを連発。
ラインアウトも苦労した。これまでの楳原に代わり、公式戦初先発の佐々木柊翔(しゅうと)がボールをスローイングしたが、これが、ことごとくノットストレートとなった。前半だけで、7本中4本がノットストレートだった。佐々木は4年生ながら、これまではけがが多く、公式戦先発出場はなかった。
試合後、緊張したの?と聞けば、佐々木は静かにうなずいた。
「初めてのスタート(メンバー)だったんで…。ちょっと硬かった。もう少し、リラックスできればよかったんですが…。自分的にはまっすぐ、ベストのところに投げていたと思ったんですが…。まっすぐ投げるところの精度が足りてなかったです」
でも、これも勉強か。やがて経験は宝となる。
「スローイングもスクラムもまだ、練習が足りてなかったです。でも、きょう初めて、公式戦の雰囲気を知ることができました。今後、修正していきたい。スクラムのペナルティーのところでは自分がレフェリーに聞きにいきたい」
◆中林が逆転トライも…。前半終了間際に反則からの失トライ。
それでも、日体大は前半21分、敵陣ゴール前でFWがラッシュして、最後は中林が左中間にボールを押さえた。逆転トライだ。5-3とした。
だが、細かいミスを連発し、中大に流れを渡す。ラインアウトから、ディフェンス網を崩され、大外に走られた。ゴールも決められ、5-10とされた。
あえて、勝負のアヤを探せば、前半終了間際の反則からの失トライだろう。自陣ゴール前のマイボールスクラム。慎重にボールをキープし、タッチに蹴り出せば、ハーフタイムだった。でも、このスクラムでアーリープッシュのフリーキックの反則を奪われてしまった。速攻をくらい、右中間にトライをもぎ取られた。5-17と点差がひろがった。勝負に「たら・れば」はないけれど、このトライをなければ…。
◆ディフェンス網が崩れてトライを奪われる
後半、日体大は反撃に転じた。
スクラムを修正した。ヒットがよくなった。後半3分、マイボールのスクラムで中林が低く当たり、3番の吉田伊吹も前に出る。ぐいと押し込み、相手のコラプシングの反則を誘った。このPKを岡部が速攻で持ち出して、相手のタックラー2人を弾き飛ばすようにして、左中間に飛び込んだ。「マヌ」ことラコマイソソ・イマニエルがゴールを蹴り込み、12-17と詰め寄った。
だが、後半14分、またもラインアウトからのサインプレーでディフェンスを乱され、追加トライを許した。その3分後、日体大はPKからタッチキック、そのラインアウトからドライビングモールをぐりぐり押し込んで、フッカー佐々木が左中間にトライした。再び、17-24の1トライ1ゴールの7点差と追いすがった。
直後、またも中大バックスにサインプレーから大外に走られて、相手スタンドオフに左隅に飛び込まれた。ゴールも決め込まれ、2トライ2ゴール差の17-31と点差をひろげられた。後半30分過ぎ、モールを押し込み、インゴールに押さえたと見えたが、トライを認められなかった。惜しかった。
◆大野主将「悔しいですね」。教育実習で主力4年生が不在。
ベンチから観戦した大野主将は開口一番、「いやあ、悔しいですね」と漏らした。
「前回までの試合と比べると、ラインアウトのところが悪かったですね。バックスのディフェンスで抜かれるシーンが多くて…。相手のセットからのバックス展開に対し、ちょっと(ディフェンスラインを)上げて止めるディフェンスができなくて…。ちょっとニッタイらしくなかったですね」
毎年のことながら、春のこの時期は教育実習で4年生が少なくなる。苦しい布陣の時こそ、全員の戦う気概が大事になる。主将はこう、3年以下の奮起を促した。
「こんな時は、3年生だけじゃなく、1年生、2年生、3年生全員が、こう、受け身ではなく、自分から動いたり、声を出したりして、自分から何かを変えていかないといけないんです。そうじゃないと、チームとして厳しい戦いとなるんです」
◆ゲームマネジメントが課題
ゲームマネジメントも課題である。
この日は、昨年度の秋の公式戦と同じような悪い展開となった。スクラム、ラインアウトで後手を踏む。敵陣にせっかく入っても、自分たちのミスでエリアを奪い返される。
湯浅直孝ヘッドコーチ(HC)は、こう反省した。
「セットプレーからのオプションの選択、流れ的なゲームメイク…。ピック&ゴーでイケるところもあった。もう少し、ゲームの流れを勉強させることが必要でしょ」
そして、ひと呼吸。
「直しがいがあります」
◆秋廣監督「セットプレーでやられた」
秋廣秀一監督は、「セットプレーでやられました」と言った。
「はい、悔しいですね。スクラムで、レフェリーとのコミュニケーションがあまりなかったようです。ラインアウトでも、前半でノットストレートが3本、4本ですか。せっかくスクラムで優位に立って、(コラプシングの)ペナルティーをもらって、さあ、これからだという時にノットストレートでは…。痛かったですよね」
◆残すは6月1日の関東学院大戦、15日の立大戦
これで成蹊大、日大に勝って、中大に敗れた。
ただ春シーズンの公式戦は勝敗よりも、内容であろう。収穫と課題は見えた。
関東大学ラグビー春季交流大会で残すは、6月1日の関東学院大戦と、6月15日の立大の2試合となった。
◆保護者の愛情がラグビー部の背を押す
この日の夕方、青葉台駅そばのイタリアンレストランにてラグビー部員の保護者の親睦会が開かれた。不肖松瀬も、佐藤浩副部長、矢野広明部長補佐と一緒に参加した。
保護者はざっと、50人。父母の子への愛情は、海より深く、山より高い。
へたくそな詩人というなかれ、保護者を見たら、そう思うって。
誰だって、自分の子が負けたら、悔しいだろう。
過保護は禁物なれど、子を思う親たちの愛情がまた、日体大ラグビー部の背を押していく。
(筆:松瀬学、写真:日体大ラグビー部スタッフ)
1年 SH 井上旬(1st Cap) 3年 NO.8 岡部義大ゲームキャプテン 3年 CTB ラコマイソソイマニエル 3年 LO 石塚翔真 4年 HO 佐々木柊翔