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まっちゃん部長日記②開幕戦、早大に敗れるも「感謝と意地のワントライ」
北の大地の北海道で、日本体育大学の2025年関東大学対抗戦Aリーグ(1部)がはじまった。決戦前夜。宿泊した小樽市のホテルの夕食会場に小樽ラグビースクール(RS)の子どもたちの甲高い声が響きわたった。「ニッタイダイ~、がんばれ~」と。
実は小樽市在住の日体大OBの尽力で、小樽のちびっ子ラガーたちは日体大の応援団と化していた。みんな濃紺のTシャツを着ている。胸には金色で「UNICORNS」とある。子どもたちの応援を力とし、翌日、日体大は「戦いの地」札幌に乗り込んだ。
9月13日。土曜日。月寒屋外競技場(ラグビー場)。気温23度。涼しい。小雨降る中、バックスタンドには、小樽RSの子どもたち20数人が日体大Tシャツ姿で陣取っていた。真ん中にはおおきな横断幕があった。白地に赤字と黒字で、こう描かれていた。
『頑張れ! 日体大ラグビー部!!』
◆開始10分間で3トライを献上、前半終盤に反撃
さあ、昨年対抗戦8位の日体大が優勝の早大に挑む。空には黒くて低い雨雲が立ち込める。強い南風が吹く中、試合は午後1時、風下の早大ボールでキックオフ。
立ち上がり、日体大は緊張もあってか、受けに回った。コンタクトエリアで後手を踏む。早大のはやいテンポの展開ラグビーにディフェンス網を乱されて、いきなり10分間で3トライを許してしまった。日体大は風上なのにエリアマネジメントがうまく機能できず、長いキックでピンチを脱出できなかった。
その後も早大バックスに3トライを追加されて、0-38とされた。かわいそうに、スタンドの日体大応援団は静まり返っていた。でも、日体大魂は生きていた。ラスト7分間、猛反撃に転じた。キックオフを長身WTBの分藤(ぶんどう)太一がジャンプ一番、ダイレクトキャッチ。連続して相手ペナルティーを奪って、攻め続ける。ディフェンスに回っても、フランカー家登正旺がスティール(旧ジャッカル)を仕掛けてターンオーバーに成功した。拳を突き上げ、ガッツポーズ。
FWもどんどん前に出た。「やればできる」と日体大は誰もが感じたことだろう。ようやく、スタンドの子どもたちから声が出始めた。
「がんばれ、がんばれ、ニッタイダイ」
◆岡部「北海道きて、ゼロで終われないぞ!」、吉田が早大戦5年ぶりのトライ。
前半を0-38で折り返した。ハーフタイム。早大はラグビー場内のロッカールームに戻ったのに、日体大はフィールド横のテント下に椅子を並べて座った。コーチ陣も交じり、修正点を言い合う。最後にフランカー岡部義大の掛け声が流れてきた。
「北海道きて、ゼロで終われないぞ!」
後半がはじまる。風上の日体大がキックオフ。敵陣ゴール前に黒色ヘッドキャップのスタンドオフ石谷陸翔がパントを上げて、攻め込んでいく。PKからラインアウト。そして、モールを押し込んで、怒とうの攻めをみせた。
自陣に反撃されても、フッカー内山怜がインターセプトでボールを奪う。暴れん坊のナンバー8、中川内優太が鋭く突進する。天然パーマのロック石塚翔真がからだを張る。CTB鈴木一平、FB五味侑也がナイスタックル。
再度、敵陣に攻め込んだ。ラインアウトが乱れたが、うしろのプロップ吉田伊吹が捕って前に出る。ラックから赤色ヘッドキャップの内山が、石塚がサイドを突く。家登も、岡部も、ラックの左、左、もういっちょう左。FB五味までラックに加勢にきた。バックスも一緒になって前に出る。後半6分、最後は吉田が低い姿勢でぐいとポスト下に持ち込んだ。
レフェリーの右手が高々とあがった。トライ! バックスタンドの小樽RSの一団も喜びが爆発した。「いいぞ、ニッタイ!」。“ワントライぐらいで喜びなさんな”というなかれ、昨シーズンは早大にノートライで完敗(0-83)していた。秋の公式戦で早大からトライを奪ったのは何と5年ぶりだったのだ。
吉田は試合後、言った。
「フォワード戦にこだわることを意識しました」
石塚はこうだ。昨年の早大戦はベンチから途中出場した。
「ことしは楽しかったです。昨年(の早大戦)は入る時には80点ぐらい差をつけられていたので。でも、ことしは、いけそうでした」
◆後半はほぼ互角。「「1969年には社会人も破って日本一になった歴史があるチーム」
SO石谷がゴールを蹴り込んで、7-38とした。その後も、日体大はよく耐え、よく攻めた。それぞれの前に出るタックル、ディフェンス網も機能しはじめた。コンタクトエリアでもほぼ互角に戦った。みんな、からだを張った。
後半11分、愛称トムことパエア・レワが吉田と代わった。トムが“メガトン・タックル”を連発した。後半17分、スクラムの要、がんばり屋のプロップ、中林勇希が右手を痛めて、築城峻汰と交代した。スクラムも耐える、がんばる。マイボールはダイレクトフッキングを絡め、早めにバックスに回した。
FWが結束する。ゴール前のピンチでも、ラインアウトからの相手モールを押しとどめる。ゲームキャプテンの逢坂侑大が軸となるモールは日体大の武器となるだろう。CTB木村航がこぼれ球をナイスセービング。逢坂がナイスタックル、木村、一平の両CTBのはやいタックルがさえた。交代出場の黒色ヘッドキャップのフランカー江頭京介が得意の猛タックルを連発、スティールでターンオーバーに成功した。
ほぼ互角の展開。スポーツ専門局J SPORTSの解説者、我が早大ラグビー部同期の藤島大さんが「1969年には社会人も破って日本一になった歴史があるチームですから」と日体大の伝統に言及してくれた。
◆アンラッキーな失トライで流れが変わる。7-59でノーサイド。
スコアが動かない。後半中盤。業を煮やした早大がエースの日本代表FB、矢崎由高を投入してきた。それでも日体大は矢崎をダブルタックルで止めていた。
が、後半30分、アンラッキーなトライを早大に与えてしまった。はやい日体大ディフェンスラインが機能していたのに、乱れた早大のパスがバックスの頭にあたって大きく前方にはねた(ルールでは、なぜか、手、腕に一切触れていなければ、ノックオン=ノックフォワードと見なされないのだ)。これを矢崎がひろってインゴールに持ち込んだ。
レ・ミゼラブル(あぁ無情)である。このあと、さらに2トライを加えられた。計9トライを献上し、7-59でノーサイドとなった。
◆スクラムの課題はレフェリーとのコミュニケーションと修正力
スクラムはがんばった。でも、早大の狡猾な組み方に対応できず、何本もコラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられた。当たり勝った早大は足を前に動かし、ぐいぐい押し込んでくる。現象として、日体大が後退しているように見える。だから、レフェリーは日体大の反則を吹いてしまったのだろう。
ルールでは、ボールを投げ入れるまで、プレーヤーは体を固定し、相手チームのスクラムが崩れないように静止する必要がある。むしろ早大のアーリープッシュの反則ではないのか。日体大の木下剛スクラムコーチも首をひねった。「これでは仕掛けた者勝ちになります。ふつうはヒットした後、一度、プッシュを待たないといけないでしょ」と。
反省として、日体大はレフェリーとのコミュニケーションをもっととるべきだった。そして修正すべきだった。右プロップの吉田はこう、振り返った。
「自分たちのスクラムの組み方ができることもあったけど、全体的にやりきれなかった。相手のペースに合わせ過ぎました」
逢坂ゲームキャプテンはこうだ。
「ゲームの入りのところではどうしてもやられちゃうんかと感じていたんですけど、始まると結構、自分たちの力が早大に通用することがわかったんです。どんどん前にいくようになりました。これをやり通すことができれば…。自信になりました」
◆MIP鈴木一平「やり切れたところと、やり切れなかったところ、両方あった」
湯浅直孝ヘッドコーチの表情に暗さはなかった。あくまで前向きだ。
「前半のエリア取りで風上を生かせなかったのが大きな敗因かなと思います。でも、後半、ディフェンスの我慢のところ、FW戦のところは踏ん張れたのかなと。それで、この点差で終われたのでしょう。いかに前半から、しっかりエリア取りを意識して、ディフェンスを徹底し、リズムを作りながら、バックスのアタックスピードを上げていかないといけないでしょう」
MIP(モストインプレッシブプレーヤー)に選ばれたのが努力家のCTB鈴木一平だった。けがを乗り越え、先発メンバーとして好タックルを連発した。ありがたいことに、茨城から、ご両親も札幌に応援に駆け付けていた。鈴木はこう、総括した。
「1本、相手に抜かれたところはあったけれど、裏(の早大選手)をしっかり詰めるところはやり切れました。チームのディフェンスのところはやり切れたところと、やり切れなかったところ、両方あったのかなと思います。試合動画をよく見て、反省して、修正していきたい」
◆秋廣監督「小樽市の子どもたち、試合に出られないメンバー、応援には感謝」
秋廣秀一監督は開口一番、「FWが非常にがんばってくれました」と漏らした。
「とくに後半です。スクラムで踏ん張り、モールでも自信を持っていけていました。でも、最初は相手のはやいテンポに惑わされて受けに回っていました。これからは、FWだけじゃなく、バックスも鍛え上げて、目標である大学選手権出場を目指していきたい」
次は9月27日の帝京大戦となる。強豪との戦いが続くことになるが、14日の試合で筑波大が明大に勝つなど、ことしは波乱のにおいが漂っている。どのチームも“やればできる”のである。
秋廣監督は記者会見の冒頭、「北海道のラグビー協会、日体大のOB会、北海道支部のOBのみなさんに協力していただき、いい環境の中で試合をさせていただきました」と言った。実は、この試合、日体大のノンメンバーたちが全員で横浜・健志台キャンパスの教室でライブ中継を見ながら応援していたそうだ。言葉に実感をこめる。
「小樽市の子どもたちも、試合に出られないメンバーも、応援には感謝しています」
◆ラグビーも生活も「タフ・チョイス」
日体大の今季のスローガンが「Tough Choice(タフ・チョイス)」」である。何事においても、より厳しく、より険しい選択を選ぶことで、日々の成長を促し、チームとして目標を達成するのである。
これは何も、ラグビーだけに限らない。ふだんの生活でも大規模リノベーションした合宿所をキレイに掃除するかしないか、大学キャンパスの建物の上り下りに階段を使うかどうか、歩きスマホをするかどうか…。どだい規律ある生活ができなければ、ラグビーにおける緻密さ、精度あるプレーは生まれないのである。
「無限の感謝とタフ・チョイス」。これが大学選手権出場のカギを握ることになる。
(文:松瀬学、写真:鈴木さとみさん<最後の1枚は松瀬撮影>)









