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まっちゃん部長日記③「日体大、緊急事態にチーム一丸。明大に敗れるも自信芽生える2トライ」
緊急事態である。決戦の朝に発熱した試合メンバー3人を含め、大量19人がこの1週間でインフルエンザ感染にて練習や戦列から離れざるをえなかった。いわば急造チーム。でも、窮地でひとり一人がからだを張った。魂のタックル、魂の寄り、魂のファイト。強豪明大を慌てさせた。
土曜の10月11日、雨の神奈川県大和市の大和スポーツセンター競技場。バックスタンドのそばには小田急江ノ島線が走り、時折、電車が通過していく。走行音に交じって、地元ラグビースクルールの子どもたちの声援が風雨にのる。
「がんばれ、がんばれ!ニッタイダイ!」
「いいぞ、いいぞ! ニッタイダイ!」
日体大は前節、帝京大には7-113で大敗していた。関東大学対抗戦の明大戦の記録をみると、昨年は0-101で惨敗している。またも…。でも、12-43でノーサイド。4年ぶりに明大戦でトライをマークした。しかも、2つも。
試合後、秋廣秀一監督は「ひとりひとりの魂を見せてもらった」と漏らした。
「試合のメンバーの編成で試合の朝まで死ぬ思いでした。マイナス要因が重なって…。もう組織的なところより、一対一のところから勝負するしかありませんでした。危機感にさらされて、やらなきゃというメンタルがすごく見えました。正直、びっくりしました」
◆コクトチ伝統の“鬼のタックル”が炸裂
日体大はみな、ひたむきだった。
最後まで試合を捨てなかった。その象徴が、明大に大外展開からトライを奪われたあとの「ロスタイム3分」の攻防だった。
急遽ロックに入った177センチ、91キロの2年生、島澤桜太が低い姿勢でボールを前に運ぶ。公式戦初出場の166センチ、63キロの2年生WTB、清原尚己が鋭く前に出て明大の巨漢にタックルする。弾き飛ばされても、すぐに立ち上がり、またも追いすがっていく。途中交代出場の160センチ、64キロの1年生SH、白鳥蓮が、177センチ、75キロのWTB、結城遥斗が、前に前に出ていく。
紺色ヘッドキャップの公式戦初先発の1年生、フランカー加藤成悟、ロックに入った3年生リーダー、岡部義大、フランカーの3年生、家登正旺、そしてナンバー8の2年生、千野太雅。「鬼のタックル」のコクトチ(国学院栃木高校)のDNAを持つ4人がしつこく、しつこく、相手の下半身にタックルを繰り返した。
結局、明大に追加のトライは許さなかった。スタンドから見ていて、こちらの心が震えた。これぞ、ラグビー、“やればできる”のである。
家登は「試合に出られないメンバーのためにも」と言った。紺色とブルーの横縞ジャージー、通称「ダンガラジャージー」を着る者のプライドだろう。
「正直、主力メンバーが何人もいない中で、自分たちにフォーカスした試合でした。(試合出場の)チャンスをもらったわけですから、タックルでからだを張ることしかありませんでした」
◆応援の石井学長も4年ぶりのトライに大喜び
この日、スタンドには、レインコートを羽織った石井隆憲・日体大学長の姿もあった。雨の中、最後まで試合を観戦していただいた。キックオフが11時30分。大喜びされたのは、前半10分過ぎのことだった。
日体大は明大に先制トライを許したが、すぐに反撃に転じ、明大ゴール前に攻め込んだ。必死に守る明大。ここで明大ナンバー8がシンビン(10分間の一時試合退場)。そのPKから岡部が前に出て、ゲームキャプテンの元気印、フッカー楳原大志がゴールライン寸前までボールを持ち込んだ。ポイントをつくって、島澤が左サイドを攻める。ゴールラインには届かない。今度は右サイド、もういっちょ右サイド。
ゲーム主将の楳原が前傾姿勢でゴールライン上に持ち出した。右側をサポートした岡部の寄りが効いていた。足をかく。密集をのぞき込んだ岡崎延也レフリーの右手が挙がった。トライ! 明大戦、4年ぶりのトライ!
楳原が雨空に向かって雄たけびをあげた。SO五味侑也が難なくゴールキックをけり込んで7-5と逆転した。スタンドの僕は思わず、後ろ上段に座る石井学長と握手した。
ゲーム主将の楳原はようやくケガから復帰した。プレーもだが、この日は声を張り上げてよくチームを鼓舞していた。
試合後、楳原は「ほんと、危機的な状況の中でチームが一丸となって」と話し出した。言葉に実感がこもる。
「やっぱり初めてファーストジャージを着る選手も多くて、その中で、全員がひとつのボールにむかって全力でがんばったと思います。試合に出る選手たちは、ジャージーを着られるという誇りを絶対、忘れてはいけないんです」
◆MIP五味、絶妙の左足ゴロキックでトライを演出
雨による明大のハンドリングミスに助けられたこともあるが、それを誘発したのは、日体大の鋭いタックルだった。SO五味や1年生の木村航、4年生の鈴木一平の両CTBの前に鋭く出るディフェンス網だった。
小柄なFWもブレイクダウン、モールで健闘した。スクラムは押し込まれたが、ラインアウトは悪くなかった。五味のキックもさえていた。前半を7-17で折り返した。
さあ、後半だ。風下の日体大キックオフで試合開始。後半3分だった。敵陣深く、ラインアウトから右オープンに攻める。島澤がボールキャリー。五味がキックで明大ディフェンスを揺さぶる。赤色ヘッドキャップの公式戦初出場、左プロップ荒田悠佑がボールを持ち出す。右へ出る。がんばり屋のCTB鈴木一平がポイントをつくる。家登、加藤、島澤が素早く寄る。
右オープンへ。SO五味が少し流れながら左足で絶妙なゴロキックを明大ゴールラインあたりに転がした。スピンがかかっていたので、明大の日本代表FB経験者の竹之下仁吾が処理に戸惑った。
そこに、真面目にキックを追いかけたWTB清原がボールに飛び込んだ。相手が弾いたボールをインゴールで押さえた。トライ~! 12-17と追い上げた。
試合後、五味が「モスト・インプレッシブ・プレーヤー」に選ばれた。試合後の表彰式、銀色のメダルと小さいグリーンのぬいぐるみ、大和市のマスコットキャラクター「ヤマトン」をもらった。「雨の中、応援にきていただき、ありがとうございました」とグラウンドでマイクに向かって言った。
「自分たちの(グラウンド上での)規律が守れなくて」と反省も口にした。この日のペナルティーは明大7に対し、日体大は16にも及んだ。
五味はロッカー室そばの通路で、こう言葉を足した。
「1週間準備してきた新しいハイパントを使うことができました。敵陣でも、自分たちから仕掛ける積極的なキックを使えて、トライにつながってよかったと思います。キックを使った戦い方は、今日のものがベースになればイケルかなと感じます」
◆島澤「スポーツマネジメント学部の星」
確かに負けは負けである。課題も多くみえた。それでも、選手たちに自信が芽生えてきたのは確かだろう。学生スポーツはメンタルが大きくゲームに影響する。今後の試合に向け、一筋の光明が差し込んできた。
自信とプライド、帝京戦で失ったのはこれだった。選手たちは着替えて、競技場の出口付近に集まっていた。そこから、大きな声が飛んできた。
「部長、僕はスポーツマネジメント学部の星ですよね?」
誰かと思えば、スポーツマネジメント学部2年の島澤桜太だった。スポーツマネジメント学部の教授ゆえ、僕担当の授業も履修している。いつも睡魔と闘いながら真面目に勉強している、そう見える。
星ねえ、と返せば、島澤はこう言った。言葉に充実感がにじむ。
「だって、今日はメチャクチャ、タックル行って、キャリーもいい感じで進めました。1個、うまくいかなかったところがあったんですけど、いいタックル、いいキャリーで、個人的な目標は達成できたのかなと思うんです。試合は負けましたけど」
この自信が成長を後押しするのだろう。ヨッシャ、島澤は今後、「スポーツマネジメント学部のキラキラ星人」と呼ぶことにしよう。
◆岡部「前半のいい流れを後半、継続できなかった」
敗戦にも、ロッカー室に引き揚げてくる選手の表情は明るかった。後半、一時期、5点差に詰め寄った。それなりに健闘できたとの充実感はあったのだろう。
だが、FWリーダーの3年生、岡部の顔は厳しかった。「よく頑張ったね」と声をかければ、「いや、ちょっと」と唇をかんだ。
「前半のいい流れを後半、継続することができませんでした。(後半)最初にトライをとったんですけど…。相手バックスの大外展開に翻弄されて…。FWがまだまだ、ラックに寄りすぎて。もっとディフェンスラインを広げないといけません」
◆レフリーへのリスペクトを忘れるな
そういえば、日体大として、反省しなければいけないことがある。ノーサイドの笛が鳴った後、トンガ人留学生の2年生、「トム」ことパエア・レワは岡崎レフリーに駆け寄り、頭を下げた。レフリーに笑顔で握手を返してもらった。
なぜかというと、トムは試合中、判定に不満を覚え、感情的な言葉をレフリーに発してしまっていたようだ。ラグビーという競技において、レフリーの判定は絶対である。何があろうと、レフリーへのリスペクトを失ってはならない。
トムは将来性ある逸材である。185センチ、120キロ。持ち前の“ダイナマイトタックル”を炸裂させ、明大FWをビビらせた。だからこそ、理性を失ってはならない。よきラガーとして成長しなければなるまい。
◆今こそ、「タフ・チョイス」を
試合後のグラウンドでの円陣。
雨と汗でぬれた選手に対し、湯浅直孝ヘッドコーチは「やろうとしたことがある程度はできたのかな」と優しい言葉で労をねぎらった。
「これで満足することなく、次の試合でも継続することが大事だと思う。我々がやるべきことの道筋は見えた。しっかりと日ごろの練習からやっていこう」
そうだ、そうだ。練習に取り組む姿勢。生活における体調管理。ふだんの厳しいトレーニング。泣いても笑っても、あと対抗戦は4試合となった。次は10月26日の慶大戦(夢の島)。これまでの屈辱と後悔、少しの充足を、苦悶と熟慮の先の歓喜へどう結ぶのか。
勝者とそうでない者の距離は一日一日の「努力の質量」が隔てることになる。さあ、みんな、今こそ、今年のチームスローガン、『タフ・チョイス』を肝に銘じよ。
(記事:松瀬学、写真:大野清美さん、最後の3枚は松瀬)