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まっちゃん部長日記④最後は「魂」の勝負、日体大が慶大に屈す
魂とは何だろう。執念、誇り、泥臭さ、あるいは先輩たちから受け継ぐプライドか。日本体育大学は前半、12-12と互角の展開を繰り広げながらも、ラスト20分間に3トライを慶大に奪われ、17-45で敗れた。これで関東大学対抗戦Aグループにて4戦全敗、目標の「大学選手権出場」の道は厳しくなった。
「魂負けです」。日体大の秋廣秀一監督はそう、声を絞り出した。
「悔しいです。最後、勝利を逃してしまいました。後半20分過ぎ、足をかき続けるとか、基本的なところで執念の差が出たような気がします。慶応はよく、鍛えられていました。慶応魂にやられてしまった感じです」
◆今季初出場のWTB大野主将が2トライの活躍「チームを勝たせたかった」
10月26日。雨空の東京は江東区夢の島競技場。遠くには靄がかかった高層マンションが林立し、グラウンド近くにはJR京葉線の電車が行き来する。午前11時30分、キックオフ。寒い中、日体大、慶大のOBほか、保護者やファンら千人近い観客がスタンドを埋めた。
日体大は前半、よく戦った。束となったタックルで慶大の攻めをしのいでいく。スクラムは押した。接点でも当たり負けせず、ブレイクダウンでは二人目の寄りも強烈だった。攻めては、とくに今季初出場、けがから復帰した大野莉駒キャプテンが躍動した。
不当なプレー(意図的なノックフォワード)による反則で認定トライを献上したあとの前半20分過ぎだった。WTB大野が脱兎のごとく、右ライン際を疾走する。相手タックルがくるとみると、小さくキックを蹴って相手をかわし、そのボールを自分でキックして転がしていく。ポスト右に両手でボールを押さえた。トライだ。
大野主将の述懐。
「自分の得意のランで勝負しました。(キャプテンとして)チームをまとめて、チームを勝たせたかったんです」
5-7とし、流れが日体大に傾く。その5分後、自陣でのピンチの場面。大野主将は相手パスをインターセプトし、そのまま70メートルほどを走り切った。ど真ん中にトライ。SO五味侑也が難なくゴールを蹴り込んで、12-5と逆転した。
大野主将が言葉を足す。「自分がもう、ゲームの流れを変えるしかなかったんで。プレーで見せようと思いました」と。
ここから、オフサイドなどの反則を連発する。流れが変わる。前半終了間際、慶大にトライを許し、12-12とされた。
大野主将は「「前半は敵陣で戦えていたんですけど」と振り返った。相手が蹴ってくるのはわかっていた。風下の日体大もキックを織り交ぜ、優位に展開した。
「前半は敵陣にいるゲームメイクができました。ディフェンスのそろった状態での上がりだったり、ブレイクダウンの二人目のダブルだったり、意識してできていたのかなと思います」
◆痛いターンオーバー直後の慶大インターセプト。
後半、日体大は運動量が落ちてきた。こぼれ球などへのリアクションスピードも鈍る。慶大に2トライを奪われた。だが、後半24分、途中交代のプロップの「トム」ことパエア・レワがラックの左サイドを強引についてトライをもぎとった。
17-26と追い上げた。これで3トライ目。ちなみに日体大が秋の公式戦で慶大から複数のトライを挙げたのは、2019年以来のことである。
あえて、勝負のアヤを探せば、この直後に慶大に許したトライだったであろう。
後半27分。日体大は自陣22メートルライン付近で結束したカウンターラックでターンオーバーに成功した。チャンス。1年生SHの井上旬と右ラインのSO五味の間には左プロップの築城峻汰らFWがいた。SH井上のパスが山なりになった瞬間、オフサイドぎりぎりの相手フッカー藤森貴大にインターセプトを許してしまった。リアクションのタックルも鈍く、中央に飛び込まれてしまった。残念ながら、体力不足、メンタルフィットネスが落ちていたのだろう。
ゴールも蹴り込まれ、スコアが17-33となった。そのあと、さらに2トライを追加され、17-45でノーサイドとなった。
過去の秋の公式戦の慶大との戦績をみると、2020年が0-74、2021年は5-43、2022年8-43、2部転落の2023は対戦なし、そして2024年は0-50だった。
比較的、健闘したといえなくもない。だが、負けは負けである。この悔しさを晴らすには、練習から奮起するしかあるまい。
◆湯浅HC「悔しい思いをみんなで共有」
試合後、出場選手はロッカー室に集まった。
湯浅直孝ヘッドコーチが「悔しいという思いをみんなで共有しました」と説明する。
「結果は受け止めないといけません。今日はしっかりと試合を反省し、次の試合、どうだったら勝てるのかを考えて、グラウンドに立とうと言いました」
なぜ、負けたのか。「ディフェンスのところで」と言った。
「前半は相手を止められていました。でも、後半は相手にちょっと前に出られたりして、相手にテンポをつくられてしまいました。本来なら、(後半序盤)うちが乗っていかないといけないのに、先に相手に乗られてしまいました。後半のゲームプランの遂行、これはちょっと弱かったかなと思います」
対抗戦はつづく。あと3つ。次は、帝京大を破った筑波大(11月9日・江戸陸上競技場)に挑戦する。
秋廣監督はこうだ。
「日体魂ももっと出せたんじゃないかなと思います。ラスト20分、その魂が見えませんでした。次は80分間、魂を見せます」
◆日体魂を振り絞れ!「涙の数だけ強くなれるよ~♪」
このミーティングのあと、大野主将はロッカールームの隅っこで目立たぬよう、立ったまま白い壁に頭をつけて、数分間、むせび泣いていた。FWリーダーの岡部義大は人目をはばからず、悔し涙を流していた。見ているこちらも胸が痛くなる。
先日、日体大女子のバーベキュー大会で選手たちが合唱した歌を思い出した。岡本真夜の名曲『TOMORROW』。
<涙の数だけ強くなれるよ~♪
アスファルトに咲く 花のように~♪>
さあ、日体魂を振り絞れ。ふだんの練習から。
く本文:松瀬学、写真:大野清美さん>






