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2025.11.26.

まっちゃん部長日記⑤一丸の日体大が4年ぶりの対抗戦勝利「MVPは全員」

 ◆3年生の石塚、岡部「4年生を勝たせてあげたい」

 

 もう泣けて、泣けて。ラグビー日本代表がジョージアに劇的な逆転勝利を収めたからではない、日本体育大学が関東大学対抗戦Aグループ(1部)で4年ぶりの勝利を挙げたからである。グラウンドの選手も、スタンドの保護者も号泣していた。

 戦術の徹底と選手の執念、そして“ひとつ”になって掴んだ勝利だった。4年ウイングの大野莉駒キャプテンにとっては、初めて味わう対抗戦勝利となった。「めっちゃ、うれしいです」と、顔をくしゃくしゃにした。

 「これまで、ずっと勝てなくて…。自分が4年の最後の学年で勝てたのがうれしいです。チームで勝てたのもうれしいです。今日はニッタイのハイスピードラグビーとか、スローガンのタフチョイスとかを体現できました。フォワードはセットプレー(スクラム、ラインアウト)でがんばってくれたし、バックスも外への展開をすることができました。一体感もあって、自分たちの強みを出せました」

 試合が終わると、スタンドで声を枯らしたノンメンバーが一番下の最前列まで降りてきて、グラウンドの仲間たちに大きな声援を送っていた。「ありがと~」「やったぞ~」「ナイス~」「サイコー!」と。

 大学スポーツにおいて、学生は4年間と時間が有限である。試合メンバーは毎年、入れ替わる。だから、尊いのだ。試合前のホテルでのミーティング。湯浅直孝ヘッドコーチ(HC)は、「目標」をフィードバックし、この試合の目的は何だっけ?と選手に問いかけた。

 3年生以下の選手は口々にこう、応えたそうだ。

 「4年生に勝利をあげて卒業してもらうこと」

 試合後、ラインアウトで奮闘し、トライもマークした3年生ロックの石塚翔真は漏らした。言葉に実感がこもる。

 「なんとか4年生を勝たせたいという気持ちがずっとあって…。来年のためにも、自分のためにも、4年生のためにも、ほんとうに死ぬ気でやっていました」

 3年生フランカーのFWリーダー、岡部義大は試合が終わると、「ヨッシャ―」と叫んで芝のグラウンドに仰向けに転がった。こう、言った。

 「僕らは、リクさん(大野主将)、4年生に勝ちをあげたかったんです。団結の勝利だと思います」

 試合のプレーヤーオブザマッチ(POM)にはタックルで相手に刺さりまくった2年生ナンバー8の千野太雅が輝いた。グラウンドでマイクに言った。

 「今回、青山学院大にかけた思いはみんな、むちゃくちゃ強くて。それが、プレーに出せて、ほんとうによかったと思います」

 就任3年目の秋廣監督に聞いた。今日の試合のチームMVPは? 即答だった。

 「全員です。ノンメンバーや学生スタッフを含めた全員です」

 

 ◆大野主将「走り勝つ、タフチョイス、ハイスピードラグビーを体現できた」

 

 月曜祭日の11月24日。晴天下の熊谷ラグビー場。植え替えたばかりの天然芝が緑色にひかっていた。日中の最高気温が20度、風は「微風」だった。午後1時キックオフ。勝負のポイントは、セットプレーとブレイクダウンだった。相手の先発FWの平均が身長181センチ、104キロ、日体大は177センチ、98キロ。即ち、青学大はでかくてフィジカルが強い。そのパワーをどこでしのぐのか。

 試合テーマを問えば、大野主将は「勝つ」と応えた。えっ、それだけ?

 「はい、走り勝つ、当たり勝つ、です」

 ひと呼吸置いて、笑顔で言葉を足す。

 「自分たちがめざしたタフチョイス、ハイスピードラグビーを体現できました」

 タフチョイスとは。今度は湯浅HCに具体的なタフチョイスを聞くと、「ふたつです」と説明してくれた。

 「ひとつ目は、ディフェンスにて前で止めること、ふたつ目が走り勝つこと。相手を倒して起こさせて走らせて、ディフェンスがワイド、ワイドで開いているところで突くこと。自らがきつくても、相手より先に動くことを徹底しました」

 

 ◆壮絶なラスト10分間の激闘「日体大が耐える、我慢する」

 

 あえて勝負のアヤを探せば、ラスト10分の日体大の自陣22メートルライン内のピンチでの攻防だっただろう。タックル、タックル、またタックル。

 加えて、中盤の真ん中のマイボールのスクラムだった。スコアが26-21で日体大リード。だが、このスクラムで日体大はコラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられた。

 青学大がタッチに蹴り出して、ラインアウトからの攻めでノックフォワード(旧ノックオン)を犯した。電光掲示の数字が「76:08」。このマイボールのスクラムでまたもコラプシングの反則を吹かれた。

 青学大はスクラムを選択。日体大から見たら右中間のゴールラインまで10数メートルの位置の相手ボールスクラム。8人結束の力と力。気迫と気迫。それが激突し、二度の組直し。息が詰まる。

 その後、スクラムで、日体大がコラプシングの反則を3度、続けて吹かれた。はたから見れば、青学大のフロントローが意図的に押し崩しているように見えたが、加納孝紘レフェリーの目には日体大フロントローが自立せず、落ちているように見えたようだ。

 試合中にあって、レフェリーの判定は絶対だ。ほぼ同じポイントでスクラムが都合、9度も繰り返されることになった。逆転をねらう青学大が必死なら、耐える日体大も死に物狂いだった。右プロップの位置に交代出場した2年生プロップの佐々木太陽が反則の繰り返しでシンビン(10分間の一時退場)をもらいピッチの外に。

 フロントローゆえ、先に交代で退場していた先発3番の「トム」ことパエア・レワがバックスに代わり、ピッチに再度、出てきた。これが日体大には奏功する。バックスを1人減らし、FWは8人で対抗する。パワフルなトムがからだごと踏ん張る。

 スクラムが止まる。「ユーズ!」のレフェリーの声。青学大は仕方なくバックスに展開し、ゴールライン直前まで攻め込んだ。ポイント。青学大FWがラックサイドをこれでもか、これでもかと怒涛(どとう)の攻めを繰り返す。

 日体大は、3年生フランカーの岡部が、途中交代出場の2年生フッカーの内山玲、2年生フランカーの島澤桜太が、相手の足元に突き刺さる。途中出場の4年生ロックのテビタもからだを張る。FWが束となってディフェンスの壁をつくった。電光掲示はロスタイムの「88:47」。

 最期、青学大がラックの左サイドに固まりとなってでてきた。ゴールポストの下をめざして。ゴールラインまで、あと数十センチ。ここで日体大が相手を倒し、テビタが長い手を伸ばしてスティール(旧ジャッカル)をしようとした。それを阻止しようと青学大FWが倒れ込んできた。

 レフェリーの笛が鳴る。どうした? どっちの反則だ? 青学大の反則だった。このPKを大野主将がデッドラインの外に慎重に蹴り出してノーサイドとなった。まさに激闘だった。壮絶な攻防だった。日体大、よく我慢した。執念だった。日体魂が垣間見えた。

 

 ◆歓喜の爆発。秋廣監督「勝因はスクラム」

 

 日体大陣営では、歓喜が爆発した。

 「やったぞ~!」。メインスタンドの4階部分に並んでいたスタッフもガッツポーズで右こぶしを突き上げた。僕も、秋廣監督、湯浅HC、網野正大コーチ、岩本正人アドバイザーと笑顔で握手を交わし、肩を抱き合った。

 秋廣監督は、「勝因はスクラムですかね」と言った。

 「最後の10分間、スクラムでよく、粘ってくれました。この1年、スクラムを修正、強化してきました。最後の最後、それが出ました。認定トライをとられるかとヒヤヒヤしていましたけれど…」

 確かに、もしもゴールラインから10メートル以内に入った位置でのスクラムで反則を繰り返せば、認定トライ(7点)で逆転負けとなっていただろう。でも、ゴールライン付近のスクラムでの反則はなかった。結束して窮地をしのいだ。

 秋廣監督によると、「試合テーマは、セットプレーとコンタクトで勝つ」だった。

 とくに前半はブレイクダウン、スクラム、ラインアウトで優位に立った。

 1本目、2本目のトライの起点はいずれもスクラムの押しだった。がつんと当たる。結束してぐいと押す。相手に先制トライを許したが、前半24分、スクラムで相手のコラプシングをもらった後、攻めを続行した。左オープンに回して、3年生スタンドオフの五味侑也が絶妙の左足キックをポスト際に落とした。相手がキック処理にもたつくところ、大野がこれをかっさらって、横に鋭く引っ張り、左外に回ったSO五味につないで左中間にトライした。

 その後、青学大にトライを奪われたが、すかさず反撃に転じ、前半32分、敵陣ゴール前のスクラムでまたも相手コラプシングをもぎとり、FWが持ち込み、最後はロック石塚がポスト下のど真ん中にボールを抑えた。ゴールも決まり、これで24-24。

 前半終了間際、日体大がFW、バックス一体となって、グラウンドいっぱいを使って、左、右、左、右と展開した。3年センターの「マヌ」ことラコマイソソ・イマニエル、4年生センターの鈴木一平のパスワークが冴える。最後は右に回し、2年生FBの浅見友輝が内側についた大野主将に短いパスを送り、大野が俊足を飛ばし、右中間に飛び込んだ。ゴールは外れたが、19-14とリードを広げた。

 

 ◆クロップカットの楳原「気合を入れました」

 

 さあ後半だ。

 どちらが先にトライをとるのか。

 日体大だった。これまたグラウンドいっぱいを使い、右に左におおきく展開した。地味ながらも、だれもがハードワークに徹していた。倒れてもすぐに立ち上がり、サポートする。この日は二人目の寄りがよかった。後半18分。左オープンに回し、巨漢プロップのトムが運んで、左横の副将の4年生フッカー楳原大志にオフロードパス。楳原がまっすぐ突進し、さらに左をフォローした4年生の左プロップ築城俊太が猛ダッシュでポスト右に飛び込んだ。さすが、高校時代はバックス! ゴールも決まり、26-14とリードを広げた。

 どうでもいいけれど、スクラム、ラインアウトのスローイングでも活躍した楳原は試合の4日前、ヘアーサロンにいき、サイドやバックを短く刈り上げる「クロップカット」という髪型にしたそうだ。楳原は「気合を入れました」と述懐し、こう胸を張った。

 「一人ひとりが自分の役割を全うして、その結果が勝利になりました」

 

 ◆木下スクラムコーチ「日体大のカタチが見えてきた」

 

 それにしても、「ワン・ツー・スリー・フィニッシュ」ならぬ、「3番→2番→1番」とつないでの「スリー・ツー・ワン・フィニッシュ」トライとは。

 スクラムがいいと、フィールドプレーも勢いづく。木下剛スクラムコーチは「日体大の(スクラムの)カタチが見えてきました」と手ごたえを感じていた。

 「これまでは8人、ばらばらのところがあったけれど、今日は統一されていました。点、点、点が、線というか、固まりになったんです。これまで押されていたスクラム人生で、やっと押して主導権を握られた。“俺たちの戦い方ができるぞ”って、自信もついたでしょ。それが、彼らの財産になるんです」

 

 ◆1年生SH井上「タックル、もうやるしかない」

 

 地味ながらも、1年生のSH井上旬(大分舞鶴高)、WTB木村航(京都工学院高)の奮闘を見逃してはならない。とくに前に鋭く出てのタックルは見る者の胸を熱くした。

 井上は、家族が大分から応援に来ていた。ラグビー場の帰途、ばったり、井上ファミリーにあった。「ナイス、タックルでした」と声をかけると、160センチ、65キロの小柄なSHはあどけない顔を崩した。

 「タックル、もうやるしかないという感じでした。走り回って、走り回って、自分からテンポをつくろうと思っていました」

 

 ◆湯浅HC「我慢が成長した部分」

 

 苦難のシーズンを送る中で、選手たちは成長してきた。

 湯浅HCは、喜ぶ選手たちを見やり、しみじみと漏らした。

 「最後、不利な状況になっても、フラストレーションにつなげなかった。よく我慢したなあって思います。最後、ゴール直前のブレイクダウンではペナルティーをしなかった。我慢、そこが成長した部分です」

 対抗戦最終戦は、12月6日の立教大戦となる。

 入れ替え戦回避の戦いもし烈だ。日体大と、立教大に勝っている青学大、そして立教大の三つ巴となっている。勝ち点や得失点差が順位に影響を与えるけれど、要は日体大が立教大に勝って2勝目をあげれば、文句なしで、6位となる。

 7位、8位はBグループ(2部)2位、1位との入れ替え戦に回ることになる。湯浅HCは「立教大に勝てば、目標(大学選手権出場)には届かないけれど、最低ラインにたどりつけるのかと思います」と静かな口調で言った。

 秋廣監督はこうだ。

 「日体のいい流れになってきています。この流れに乗って、最後の立教に勝って、入れ替え戦回避でシーズンを終わりましょう」

 

 ◆大野主将「最後の立教に絶対、勝つ!」

 

 戦い済んで、日が暮れて。

 ラグビー場の外にノンメンバーを含めた全部員の円陣ができた。

 最期、大野主将が声を張り上げた。

 「まだ、反省部分はある。そこを改善して、立教には絶対、勝ちましょう。今日は喜んでいいけれど、決して、羽目を外さないようにしてください」

 いつもの一本絞め。

 ヨーイ、バン!

 乾いた音が、近くの黄金色に色づいた木々に溶け込んだ。

 一致団結。

 いざ、「打倒!立教」である。

 

 <筆:松瀬学、写真:大野清美さん(最後の1枚だけは筆者)>

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