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2025.12.09.

まっちゃん部長日記@日体大、連勝フィニッシュで6位と健闘「4年生を中心にチームひとつに」<Yahoo!から転載>

 これぞ学生スポーツの美徳だろう。ラグビー関東大学対抗戦Aグループ(1部)。日本体育大学が最上級生を中心にひとつにまとまり、対抗戦最終戦で立教大に4年ぶりの勝利をあげた。2連勝で締めくくり、2勝5敗の勝ち点16で6位に浮上、4年ぶりにA・Bの入れ替え戦を回避することになった。

 土曜の6日。晴天下の熊谷ラグビー場Bグラウンドだった。48-21でノーサイド。『本気』を信条とする主将のウイング大野莉駒は部員の手荒い祝福を受け、歓喜の涙を流した。言葉に実感がこもる。

 「みんなが自分のやることを遂行してくれました。メンバーはメンバー外の思いを背負って、メンバー外はメンバーに思いを託して…。チームがひとつになったからこそ、今日は勝てたと思います」。

 過酷な大学のラグビー生活が終わった。日体大は2021年に全国大学選手権に出場したが、大野が入学した22年は対抗戦Aで全敗し入れ替え戦にも負けて、Bグループ(2部)に転落した。23年時は入れ替え戦に勝って、Aに復帰した。昨年24年はAで全敗にて入れ替え戦に回ったけれど、なんとか残留を決めた。そして、主将となった4年生の今年は最後に勝利を2つ、重ねた。

 どんな4年間だったか?と聞けば、1年生からレギュラーだった主将は、「いろいろな波があって」としみじみと漏らした。

 「大学選手権に出場していた時の次の年に大学に入ったので、自分も大学選手権に出場したいという思いがずっとありました。でも、チームは負け続けて…。最後に2勝できたのがうれしいです。チームで荒波を乗り越えた感じがします」

 応援に駆け付けた母親によると、大野主将は小さい時からラグビーが大好きだった。でも、小柄で、思うようにプレーできないこともあった。それでも、決してあきらめない。「いつも一生懸命だった」と述懐する。言葉に子への愛情が満ちる。「悔しい思いをたくさんしても、やっぱりラグビーが大好きで、大学4年間を経て、大きく成長させてもらいました。我が子ながら、ラグビーが好きという気持ちでここまで頑張り抜いて、とても嬉しく、誇りに思います」

 

◆勝因は魂のタックル、結束のスクラム

 

 勝因は、全員の魂のタックル、そして結束のスクラムだった。1年間の鍛錬の成果がやっと試合に表れた。ヒットで当たり勝ち、右プロップのトンガ人留学生、「トム」ことパエア・レワが120キロ、185センチのからだを生かしてぐいと前に出る。全部で16回(マイボール14本、相手ボール2本)組まれたスクラムで実に8本のコラプシング(故意に崩す行為)の相手反則をもぎとった。

 実はトムは10月の明大戦(●12-43)でこの試合の岡崎延也レフリーに非紳士的な発言を吐いて注意されていた。試合前、改めて同レフリーに明大戦での発言を詫びた。「前回は、すみませんでした」と。

 2年生のトムは笑顔で言った。

 「きょうはちゃんとレフリーをレスペクトし、いいコミュニケーションがとれた。スクラムに集中できた。100%、出し切った」

 4年生フッカーの副将、楳原大志は試合の「プレーヤーオブザマッチ(POM)」に選ばれた。スクラムだけでなく、2本のトライもマークした。

 「チーム一丸となった結果が試合に出ました。この4年間、いろんなことがあったんですけど、最後の1年間はとくに勝ちたい気持ちが強かったです。最後、4年生がまとまって勝利を獲得できたと思います」

 同じく4年生の左プロップ、築城峻汰もスクラムでがんばり、ナイス・ランでトライも挙げた。さすが高校時代はセンター。

 「(スクラム)押せる気持ちしかありませんでした。本当に楽で。スクラムを組む前、木下さん(剛=スクラムコーチ)の練習のほうがきついゾってFWで言い合っていたんです」

 4年間は?

 「ほんと、山あり谷ありで…。4年ぶりの勝利から、さらに1勝ですから。最後、おおきな勝利だと思います」

 トムに代わって途中出場した4年生の右プロップ、吉田伊吹は静かな口調で漏らした。

 「4年間、けがが多かったんですけど、最後の試合はスクラムもよかったし、勝ち切れました。セットプレー(スクラム、ラインアウト)が安定すれば、FWゲームに持ち込める。よかったです」

 

◆千野のパッション爆発。再び、チームの闘志に火を付ける

 

 6月の関東大学春季交流大会で、日体大は立大に12-66で大敗していた。その時との違いは、教育実習で不在だった大野主将ら4年生の存在、加えて劣勢だったスクラムで優位に立てたことだった。スクラムで前に出れば、チームは自ずと勢いづく。FW、バックスのタックルの出足も鋭さを増した。

 あえて、勝負のアヤを探せば、後半10分、5点差に詰め寄られた後の日体大のキックオフだろう。2年生ナンバー8の千野太雅が猛然とダッシュし、凄まじいタックルを相手に見舞わせた。信条が「パッション」。FWが怒とうの寄りを見せる。相手反則をもぎとった。

 千野はその瞬間、雄たけびをあげながら、自分のヘッドキャップを外して、芝に思い切りたたきつけた。いつもの行動だ。

 千野は「気合が入ると、(地面に)キャップを投げつけてしまうんです。前回の青学戦でMVP(POM)をもらっていたので、それにふさわしいプレーをしないといけないと思っていました。自分のパッションをチームに届けられたらいいなと」

 この千野の猛タックルで、チームの闘志に再び、火がついた。

 その後、日体大らしい連続攻撃から、築城が爆走を見せてトライを加えた。さらに大野主将がインターセプトから右手を突き上げながらインゴールに駆け込んだ。目立たないけれど、終盤の大野主将の効果的なPGが相手の戦意を喪失させた。41-21と差を広げた。

 とどめは、トンガ人留学生の4年生ロック、テビタ・タラキハアモアがラックサイドをついてトライ、右手で左胸をたたいた。ハートのトライだ、と。

 

◆7トライはすべて4年生がマーク。後輩につなげる勝利

 

 結局、日体大は7トライを奪取した。先発メンバーの4年生が5人。トライはすべて、4年生によるものだった。

 対抗戦Aで初トライを挙げた4年生CTBの鈴木一平は言った。ラグビーとしては無名校の茨城・勝田高校卒業のがんばり屋。

 主務も務める鈴木は「4年間、苦しかったことが多くて」と漏らし、晴れ晴れとした表情をつくった。

 「(対抗戦Aでは)初めてのトライ、気持ちよかったです。大学選手権には行けなかったですけど、2勝して、後輩に結果を残すことができました」

 試合後はラグビー場の外で両親の祝福を受け、「(両親の)応援はありがたかったです」と感慨深そうだった。

 もう一人、4年生ロックの逢坂侑大はモールの軸としてチームに貢献した。

 逢坂は言葉に熱を込めた。

 「1年生の時は入れ替え戦に負けて…。ほんと、こんなチームでやっていけるのかなと思っていたけど、最後、負け続けていた青学と立教に勝って卒業できる。よかったです」

 

◆秋廣監督「学生の成長はスクラムと規律」

 

 秋廣監督は開口一番、「ホッとしました」と漏らした。

 「一番の成長はスクラムだと思います。スクラムで圧力をかけて、こちらのペースに持ち込めました。バックスも含めて、ひとり一人が自分の強みを出すことができました」

 そして、と続ける。

 「キャプテンの人柄とリーダーシップがチームをひとつにしました。愛されキャラで、みんなが“キャプテンのため”頑張ろうとの雰囲気があったんです。チームでひとつになって戦えたからこそ、勝てたんじゃないかと思います」

 特筆すべき数字がある。ペナルティー数が立大19に対し、日体大はわずか3つだった。秋廣監督は「規律の部分で非常によかった」と満足顔だった。

 加えて、監督は記者会見でラグビー部員の私生活での規律改善をアピールした。

 「学生たちがラグビーも生活も規律を守ってできるようになったんです。グラウンドや合宿所が汚いチームは弱いんですよ」

 そういえば、ノンメンバーの古賀剛志やリザーブの重見竜之介ら4年生が毎週土曜日、率先してグラウンドを掃除していた。よきチーム文化が醸成されつつある。

 

◆湯浅HC「ディフェンスにこだわってきた」

 

 湯浅直孝ヘッドコーチ(HC)も安どの表情を浮かべていた。「後半、(5点差と追い上げられ)一瞬、ひやっとしましたけど」と苦笑する。チームの成長は?

 「やっぱり、明治戦からディフェンスのこだわりをやってきたので、そこが最後、よくなってきました。そのうえで、スクラムで相手を崩せて、FWが前に出られて、モールで(トライを)とれて、バックスにボールを振ってという、アタックのバリエーションが増えたところが大きいかなと思います」

 ひと呼吸をおいて、顔をくしゃくしゃにした。

 「笑って終われる1年間でした」

 就任1年目のスクラム担当の愛称「マリオ(スーパーマリオ)」こと木下剛コーチは上機嫌だった。明るく、厳しい指導でスクラム強化にあたってきた。同コーチによると、今年は月500本のスクラムを組んできたという。

 「いいカタチのスクラムが1年を通してできました。練習で、死ぬほど(スクラムを)組んできましたから。FWがこだわりを持って、1本1本組んでくれたのがいい結果につながりました」

 そういえば、春先、ピカピカの新型スクラムマシーンも購入した。本年度のチームスローガンの「タフ・チョイス」と「FWパック」から、名付けて『ニッタイ・タフ・パック』。

 スクラム練習は「人対人」が基本ながら、スクラムマシーン購入で「今年はスクラムやるぞ!」の意識付けはできただろう。

 網野正大FWコーチは「FWのマインドが変わりました」と言った。「スクラム、ラインアウトでは、1年間の成果が最後に出ました。地道な積み重ねの結果です」

 昨年度、日体大を卒業したばかりの大竹智也コーチは、「1年、しんどかったです」と本音を漏らした。学生時代は猛タックラーで鳴らした。

 「フルコン(フルコンタクト)の練習をめちゃくちゃやって、リロード練習もやってきました。試合よりもしんどい練習を心がけてやってきた結果を試合に出してくれました」

 

◆3年生の岡部「2勝だけては物足りない」

 

 POMの表彰式で、4年生の楳原副将はマイクに向けてこう、大声を発した。「大学選手権に行きたかったんですけど、来年、岡部が絶対、連れて行ってくれると思います」と。

 そのリーダーシップに長ける3年生フランカーの岡部は、この日も試合でからだを張った。タックルしては、すぐに立ち上がり、走りまくった。

 岡部は、「4年生が最後、チームを引っ張っていってくれました」と感謝する。

 「だから、最後に2勝を勝ち取れたと思います。来年、自分たちの代になった時、2勝だけでは物足りないので、3勝して大学選手権にいきます」

 試合中、ラインアウトで奮闘し、大声でチームを鼓舞した3年生ロックの石塚翔真は「やった~」と顔をくしゃくしゃにした。

 「僕、あした(7日)、誕生日なんです。サイコーです」

 3年生センターの「マヌ」ことラコマイソソ・イマニエルはケガから復帰し、この日も奮闘した。

 「リクさん(大野主将)のために、4年生のために、勝ちたいと思っていたので、ほんと、よかったです。来年は絶対、大学選手権に行きます」

 

 ◆大野主将「来年は絶対、大学選手権に行ってください」

 

 試合が終わって、1時間余が経った。午後2時半。まばゆい冬の陽射しの下、ラグビー場の外に全部員の円陣ができた。

 この日、胸を打ったのは試合中のスタンドのノンメンバーの大声援だった。彼らも必死でグラウンドのメンバーと共に戦っていた。そう、心はひとつだったのだ。

 この時、円陣そばのラグビー場では、第2試合が行われていた。大野主将は「試合をしているので少し静かに…」と小声で言った後、大声を発した。

 「ナイス・ゲーム!」

 ウォーと部員の雄たけびが上がる。満面の笑顔がはじける、いや、よく見れば、何人かの眼には涙がにじんでいた。主将は続けた。

 「日体大がこのあと、成長することが大事です。後輩たちは、ことしの悪いところは変えて、いいところは継承していって…。来年は絶対、大学選手権に行ってください」

 チームとは生き物である。復活の道筋は見えた。まだ発展途上。新生・日体大、さらなる成長がつづくのだった。

<文:松瀬学、写真:大野清美さん>

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