NEWS

2024.08.27.

まっちゃん部長日記part8 @課題抱えて夏合宿打ち上げ「高原に咲いた信頼」

 ことしの夏はあつかった。日本体育大学の夏合宿もあつかった。8月27日。日体大は長野・菅平高原での夏合宿を打ち上げた。課題が浮き彫りとなった。

 真っ黒に日焼けした秋廣秀一監督は、円陣で全部員に言った。

 「課題が非常に明確になった。その課題を抱えたまま、シーズンに入っていくけれど、その中で修正して、目標である大学選手権ベスト8を達成できるようやっていきましょう」

 

 課題とは、大きく3つである。

 ・スクラム

 ・ブレイクダウン

 ・バックスのラインスピード

 

 ◆日体大Aの最終戦は大体大に敗れる

 

 8月25日の日曜日。菅平高原のメインラグビー場、「サニアパーク」のAグラウンド。

 日体大Aは大阪体育大学Aと対戦した。日体大は関東対抗戦のAグループ(1部)、大体大は関西のBグループ(2部)。午後1時30分キックオフ。ゴロゴロ、ゴロゴロ。遠くから雷の音が聞こえてくる。

 風下の日体大は立ち上がりが悪かった。スクラムで当たり負け、ペナルティーを続発した。前半10分、日体大バックスが中盤で大きく左に展開する。無謀にも長い飛ばしパスをほうり、相手にインターセプトを許した。あっさり先制トライを奪われた。

 2人のトンガ人留学生を軸とした大体大FWに押され、ブレイクダウンで後手を踏む。リズムが悪い。前半20分、相手のナンバー8に大幅ゲインされ、俊足FBにトライを重ねられた。ゴールが決まり、0-14とされた。

 

 ここから反撃。ラインアウトでロック岸祐融(ゆうすけ)がナイスキャッチ。右のラインに回して、CTB川越大地がハイパント。相手がボール処理にもたつくところで、SH伏見永城(えいぎ)が足にひっかけ、そのままインゴールでボールを押さえた。

 タックルはよかった。調子を取り戻したフランカー大竹智也が、ごぼごぼと熱血をたぎらせる。地を這う猛タックルを連発。フランカー楳原大志、ナンバー8岡部義大(よしひろ)もからだを張った。ロックのテビタも奮闘。

 前半32分、ラインアウトからドライビングモールで押し込み、主将のフッカー萩原一平がモールの左サイドを突いて、インゴールに飛び込んだ。1トライを返した。

 前半終了間際にもラインアウトのドライビングモールから敵陣ゴール前に迫り、FWが連続攻撃を仕掛けた。が、あと10㌢、ゴールラインに届かなかった。残念無念。12-14でハーフタイムを折り返した。

 

 ◆立ち上がりで2連続トライを許し、リズムに乗れず

 

 スクラムをうまくリードできなかったからか、あまり走れてなかったからか、フッカー萩原主将は前半で藤田幹太と交代となった。萩原主将の述懐。

 「ゲームの入りのところで2本、立て続けてトライをとられたところが乗れなかった原因かなと。途中からモールから1本、バックスから1本といい形でトライをとれたところはよかったかなと思います。もうちょっとブレイクダウンは整備しないといけません。アタックに関しても、イレギュラーな形になった時、対応がまだまだ甘いかなと思います」

 

 ◆スクラム、ブレイクダウンで劣勢に

 

 後半はどしゃ降りの雨となった。

 序盤、桐蔭学園卒業コンビの鮮やかなパスアタックが決まる。ボールを再獲得した後、成長株のFB大野莉駒(りく)が鋭利するどいランで左ライン際を駆け抜け、内側にフォローした原田来紀(らいき)とパス交換。最後は大野からパスを受けた原田が中央に持ち込んだ。ゴールも決まり、19-14とリードした。

 その後はハンドリングミスが相次ぎ、スクラム、ブレイクダウンで劣勢に回った。2トライ(ゴール)を奪われ、19-28とされた。ラスト3分。1年生の大型CTB、佐藤晟(せい)がトライを返したが、試合終了直前にもう1本、トライを奪われた。

26-33でノーサイド。

 

 ◆ラグビーは、なめたらやられる

 

 秋廣監督は、「ブレイクダウン、スクラムがやられてしまった」と悔しがった。

 「ブレイクダウンは二人目が遅くて、いいボール出しができませんでした。スクラムも押されて劣勢になった。フォワードの動きが鈍くて遅かった。走れていませんでした」

 

 目を閉じる。「入りが悪いですね。準備が悪かった」と漏らした。

 そうなのだ。午前の練習。試合に出ないノンメンバーから緊張感がさほど感じられなかった。メリハリ、規律、戦う姿勢…。部全体の空気の弛緩がゲームに出た形か。ラグビーは、なめたらやられるのである。

 

◆日体大Bは落雷中止もトニー覚醒

 

 続いて、日体大Bが大体大Bと対戦した。Aが敗れたからか、日体大には覇気がみなぎっていた。とくにトンガ出身WTBの愛称トニーことトアニトニ・キオタカ。189㌢、104㌔。白いサポーターを付けた、大木のごとき太ももで豪快に前に出る。チームメイトが冗談口調でささやく。

 「トニーは覚醒した」

 

 前半10分過ぎ。トニーが左ライン際を爆走し、タックラー(※負傷退場へ)をぶっ飛ばし、内側にフォローしたSH相間(そうま)倫太郎が中央に持ち込んだ。ゴールも決まり、12-0とリードした。この後もトニーはハイパントをナイスキャッチしたり、豪快なランを見せたりした。

 そのほか、SOマヌの好判断、いずれも1年生のプロップ中林勇希、CTB佐藤晟の奮闘も光った。FB古賀剛志(ごうし)はこの日が21歳の誕生日。

 試合後、21歳の決意は、と聞けば、古賀は「大学生活を楽しみながら、よき社会人になる準備をしていきたい」と応え、「ラグビーでは」と強い口調で続けた。

 「得意なラン、キックを生かし、(関東大学)対抗戦で“ニッタイ旋風”を巻き起こしたい」

 

 前半35分、トニーがまたも爆走した。

 逆ヘッドでタックルにきた大体大選手をはじき飛ばし、大幅ゲインした。倒れた大体大選手はほとんど動かない。ゲームが止まる。意識はしっかりしているものも、頭部を固定され、救急車で病院に運ばれた。

 直後、菅平高原に落雷警報が出された。

 試合中断から、中止と相成った。

 

 ◆日体大Cは京産大に完敗

 

 8月26日の月曜日。

 午前中、日体大Cが、京産大の本拠の「32番」グラウンドで京産大Cと対戦した。

 関西王者の京産大といえば、伝統的に「8人で組むスクラム」(京産大・田倉政憲FWコーチ)。FW8人全員がプロップの意識を持つ。バックファイブ(両ロック、フランカー、ナンバー8)がプロップ同様、鋭く仕掛けて、一丸で押していく。

 京産大のスクラムには、練習の質量の充実がにじみ出ている。やはり、スクラムは練習で本数を組んでナンボ、なのである。

 日体大は、京産大に押されまくった。ヒットスピードが違えば、バックファイブの圧力も違う。コラプシングを連発した。どうしようもなかった。

 前半途中で清水兄弟の弟、ロックの清水英乃介がコンタクトプレーで頭部を強打して倒れてしまった。意識はある。手足のしびれはない。でも、救急車で病院にいく羽目になった。心配して付き添うスタッフに対し、清水は担架の上でこう声を絞り出した。

 「めちゃ、悔しい」

 

◆大橋「いいプレーもあった」

 

 結局、試合は12-75の完敗だった。

 ゲーム主将を務めたロック大橋興太郎はあくまでポジティブだった。

 「散々な試合だったけれど、いいプレーもあった。ポジティブなコールも続けることができた」

 もちろん、「勝って反省」は理想である。でも、人間もチームもいつかは負ける。場合によっては、しょっちゅう負ける。問題は、そこでどうするか、だ。

 この屈辱と後悔を、苦悩と猛練習の先の勝利へと結ぶのか。決して、負け犬にはならない。己に克つものとそうではない者の距離は、「負けて学べるか」が隔てるのだった。

 

◆夢を追ったゼミ生に再会

 

 余談。

 ワタシは、25日の夕食後、ホテルの外にひとりで出た。悔しくて悔しくて、ラグビー部の誰とも話したくなかったからである。

 小さなカフェ&ピザ屋に初めて入った。

 女性の声が飛んできた。

 「松瀬センセ~イ」

 3年前に卒業したゼミ生だった。3年ぶりの再会だった。自分の夢を追い、大学卒業後、ニュージーランドに1年半、スキー留学した。帰国後、菅平高原でスキースクールのインストラクターをしながら、家族経営の店を手伝っている。

 この日の昼間、ラグビー部長となったワタシを探しにサニアパークに行ってくれたそうだ。偶然だった。これも縁だろう。

 その女性はこうも、言ってくれた。

 「就活のとき、ワタシの夢を応援してくれてありがとうございました」

 なんだか、とてもうれしかった。

 

◆秋廣監督「チームの絆がさらに深まった」

 

 実はワタシはラグビー部員より一足はやく、26日の午後に気温22度の菅平高原を下りた。車で34度の東京に戻った。大学の仕事があったからだった。

 学生にとって夏合宿最後の夜となる26日夜、チームビルディングの一環として、1年生から4年生までが一緒となったバーベキューパーティーが開かれた。その後、チームの士気を高めるため、4年生の決起集会もあった。

 秋廣監督からラインで報告があった。

 「チーム間の絆がさらに深まっていました」

 

 そういえば、文武両道を地で行く4年生の好漢、CTB齋藤弘毅(保健医療学部)はこう、言っていた。

 「4年生は最後です。練習から、4年生が一体となって、気合を入れて頑張るしかありません。最後のシーズン、4年生が結束してトップクラスの大学に挑みます」

 

 厳しい夏合宿を経て、部員同士の距離がぐっと縮まる。ああ、そこには信頼がある。秋のシーズンに向けた「挑戦」を前提とした信頼が。

BACK