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まっちゃん部長日記part9@勝負のシーズン開幕、王者帝京大に完敗も「感動…」
湘南エリアの青い空、緑の木々のセミの声、そして日体ブルーと帝京レッドに染まった1千人のスタンドの熱狂。残暑厳しい9月7日、関東大学対抗戦Aリーグ(1部)に復帰した日本体育大学ラグビー部のシーズンが始まった。王者帝京大にひたむきなタックルで挑むも、6-67で完敗した。
そりゃ、負ければ、悔しいに決まっている。でも、センター川越大地の顔はどこか充実感もにじんでいた。試合後、こう、ぽつんと漏らした。
「感動しました」
わが耳を疑った。カンドウ? そう、感動しました。ハイレベルの相手と戦うことができて、新たなターゲットを体感できたという。1部という最上位のステージでないと分からないラグビーの激しさ、フィジカルの強さ、精度の高さ、プレッシャーの強さ、駆け引き…。
この意外な言葉に、僕はいささか感動した。そして、確信した。この経験は必ず、今後の糧になる、と。
◆敵陣勝負、ディフェンス勝負、そして「ハイスピードランニングラグビー」で勝負
小田急江ノ島線の藤沢駅から4つ目の湘南台駅から徒歩45分。藤沢市の秋葉台公園内の「秋葉台公園球技場」。下馬評は、日体大の圧倒的不利。前回(2022年)の公式戦で、日体大は帝京大に6-129で惨敗していた。
秋廣秀一監督は、現実的な作戦として、試合を20分間×4本と組み立て、それぞれ最悪でも20失点に抑えることを考えていた。そのうえで、「敵陣勝負」、「ディフェンス勝負」を挑み、自慢の「ハイスピードランニングラグビー」で走り勝つつもりだった。
だが、帝京大は一人ひとりがでかくて強かった。しかも、基本がしっかりしている。走り勝つといっても、ボールが出なければ話にならない。両チームのメンバー表の数字をみると、フォワードの平均体重が帝京大107キロに対し、日体大は10キロ少ない97キロ。スクラムではヒットでやられ、バックファイブ(ロック、フランカー、ナンバー8)の重い押しがずんずんとくる。マイボールはダイレクトフッキングでうまく出したが、相手ボールではほとんどコラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられた。
◆小柄なSH伏見のタックル炸裂
風上の前半5分、相手ラインアウトからドライビングモールでぐいぐい押し込まれ、先制トライを奪われた。その5分後、SO五味侑也がPGで3点を返すも、スクラムのコラプシングからピンチを招き、またもラインアウトから波状攻撃を浴び、トライを重ねられた。
その後も、帝京大FWの威力はすさまじかった。前半終盤、将来日本代表入りするだろう187センチ、106キロのフランカー青木恵斗主将、182センチ、120キロのナンバー8、カイサ・ダウナカマカマが相次ぎ力ずくのトライをもぎ取った。
それでも、日体大の鋭いタックルはよかった。日体大の166センチ、70キロの小柄なSH伏見永城が帝京大の大きな青木主将に突き刺さるシーンもあった。
◆湯浅HC「二人目、三人目のプレッシャーがすごくきつかった」
ただ、一人目のタックルがよくても、二人目、三人目の攻防で後手を踏んだ。試合後、湯浅直孝ヘッドコーチはこう、漏らした。
「相手の二人目、三人目のプレッシャーがすごくきつかったなあ。1対1でタックルはできていたけれど、二人目、三人目の意識や動きが相手の方がはやかった」
日体大は敵陣ゴール前に攻め込んでも、ラインアウトのノットストレートやパスミスでチャンスをつぶした。帝京大のプレッシャーがすごいからのミスだったのだろう。ハーフタイムを3-31で折り返した。
◆光ったサインプレーとマヌのDG
風下の後半3分、日本代表候補合宿に参加していた帝京大の右プロップ、森山飛翔が豪快な突進からトライを挙げた。
その後も帝京大FWの個々の突破でディフェンス網を破られ、スピードあるバックス陣にも走られた。コンタクトが激しい。後半序盤、バックスの要、FB大野莉駒が、CTB齋藤弘毅が、タックルに行った際に右肩を痛めて、退場した。大丈夫だろうか。
ディフェンスで、粘ってはいる。ひたむきなタックルにこちらの胸が熱くなる。時折、背番号24の日体Tシャツを着た日体大ファンから大声が飛ぶ。
「ニッタイ、ニッタイ、イケルゾ!」
日体大は後半中盤、自陣からスペシャルサインを繰り出した。今季のチームスローガン『GUSH』(湧き出る)の一端が見えた。スクラムから素早くボールを出し、左オープンに展開。CTBの間にブラインドサイドのWTBがライン参加し、大幅ゲインした。
そのままトライかと思いきや、相手のリアクションのはやさもなかなかのものだった。結局、つかまり、トライにはつながらなかった。
後半30分あたりでは、途中から入ったフッカーの藤田幹太、ナンバー8の岡部義大がふたりで相手キックを猛チャージ。ドンピシャでブロックし、トライチャンスをつくった。
後半32分、ラックから途中交代のSH日髙柊がボールを後ろのSOマヌに渡し、30㍍ドロップゴールを右足で蹴り込んだ。6-53とした。
もちろん、トライの方がいいだろうが、敵陣に入れば、3点でもいいから、得点をとって自陣に帰ることは大事だろう。試合後、DGを狙っていたの?と聞けば、マヌは少し照れた。
「はい。得意コースなので」
◆無念のノートライ。秋廣監督「一つひとつのインパクトの大きさ」
日体大の気力は最後まで衰えなかった。
でも、日体大の足は止まった。そう見えた。ロスタイム。相手バックスの個人技から2トライを加えられた。結局、帝京大が11トライ。日体大はノートライに終わった。
試合後の記者会見。
ラグマガの記者から試合の感想を聞かれると、秋廣監督は重い口を開いた。
「帝京さんのプレーの精度、一つひとつのインパクトの大きさを感じました。後半は(相手のぶちかましが)ボディーブローのように効いてきて足が止まってしまった」
でも、収穫もあった。
「(マイボールの)スクラムはそんなに悪くなかったと思います。20分間の4本と考えた場合、それぞれ20点差以内に抑えてやれたということはディフェンスは評価してもいいと思います。次の早稲田戦(9月22日・秩父宮)に向けて課題が明確になりました」
◆萩原一平主将「ブレイクダウンのところで攻めの継続を」
萩原一平主将は、「ラグビーはコンタクトがマストのスポーツ」と言い、こうポジティブ口調で続けた。
「もうちょっとブレイクダウンのところで攻めを継続できていれば。そこができれば、もっといいラグビーができると感じました。オフサイドのペナルティがなかったのは、強い相手に対しては非常によかったと思います」
スクラムは?
「(マイボールの)スクラムはダイレクトフッキングでやろうとチーム内で統一していました。ディフェンスのスクラムでは、まずは押されないよう取り組んでやっていきたい」
スクラムで言えば、後半途中から入った160センチの1年生プロップ、中林勇希の頑張りが目を引いた。
日体大にとっての一番の課題はやはりスクラムか。とくにまとまり、ヒットスピード、そしてスクラムフィットネス。
佐藤友重スクラムコーチは漏らした。
「まだまだ、これからです」
◆MIP伏見「やりたいことができませんでした」
試合の『モスト・インプレッシブ・プレーヤー(MIP)』(最も強い印象を残した選手)には、日体大の伏見が選ばれ、表彰された。悔しかったのだろう、グラウンドの表彰式では、涙声でマイクに向かった。
「やりたいことができませんでした」
表彰式後、伏見はこう、言葉を足した。
「課題を掘り下げれば、細かいミスだったり…。練習の甘さが全部、出たのかと思います。今日よかったのは完全にディフェンスです。これからはアタックも結果が出るよう、スピード、精度を磨いていきたい」
ところで、もっと強くなるためにはどうすればいいのか、ラグビー関係者に聞いた。
「土を嚙むような泥臭い練習をするしかないのでは」
◆保護者は「息子の青春の伴走者になれる幸せ」
ノーサイドから1時間ほどが過ぎた。
秋葉台公園球技場の外には、大勢の保護者やファンの方々が待っていた。
そこから離れた隣の公園のベンチには、奮闘したナンバー8岡部義大のご両親がふたりで待っていた。「お疲れ様でした」。僕がそう話しかけると、父親はいつもの笑顔で「いやいや」と応えてくれた。
「息子は、悔しかったのでしょう、少し泣いていましたよね」
そこに岡部が歪んだ顔でやってきた。両親の柔和な顔を見ると、ホッとしたかのような安どの表情に変わったのだった。ああ、ここに親子の情愛がある。
試合の翌日8日、ある選手の父親からラインをもらった。
<息子との最後の青春の伴走者になれる幸せを、保護者の皆さんは感じています>
とくに4年生にとっては大学最後のシーズン。学生だけでなく、指導陣、スタッフ、OB、保護者、大学関係者、ファンにとっての、感動の“ラスト・バトル”が始まった。
(松瀬 学)
【撮影は保護者の岸健司氏、一部は筆者】