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まっちゃん部長日記@ 「紅葉と悔し涙と青春と。日体大男女チームの挑戦はつづく」
まるで「日体フェスタ」である。秋晴れの日曜の11月17日。日本体育大学ラグビー部の女子も男子も、同じラグビー場で相次ぎ公式戦に挑んだ。ともにからだを張った。ともに相手に挑みかかる気概は見せた。でも…。ともに敗北した。少なくない男女部員が悔しくて泣いた。こちらの胸も痛くなる。ああ青春の涙は貴いのである。
【女子:●日体大 12-36 YOKOHAMA TKM】
◆古賀監督「セットピースとコリジョンで圧倒されて」
太陽の陽射しが、府中・AGFフィールドの周りの赤や黄に色づいた木々の葉を照らす。並んで風に揺れるとキラキラ輝く。まず女子の試合が午前11時、キックオフされた。「OTOWAカップ 関東女子ラグビー大会」。相手は、ニュージーランド代表ら強力外国人選手を擁するYOKOHAMA TKMだった。
「ニッタイダイ! ニッタイダイ! ニッタイダイ!」。さほど多くないスタンドの観客から大声が飛ぶ。その声を背に小柄な日体大選手たちはチーム一丸となって大きなからだのTKMにかかっていった。低くて、ひたむきなタックル。倒れてはすぐに立ち上がる。アタックでは時にテンポよくつないでいった。
でも、チャンスになると、ハンドリングエラーが起きた。ブレイクダウンではパワフルな相手に圧力を受ける。時にはターンオーバー(ボール奪取)される。何といっても、ラグビーの基本であるセットピース(スクラムとラインアウト)で圧倒された。
「(敗因は)セットピースですよね」。試合後、古賀監督は小さく漏らした。
「前半のラインアウトは(マイボールで確保できたのは)8分の3ですからね。これでは、厳しいですよ。セットピースとコリジョン(接点)で完全に圧倒された感じでした」
◆ハンドリングミスでチャンスがつぶれて
スクラムではコラプシング(故意に崩す行為)でPKをとられる。TKMのナンバー8、ラディニヤブニのパワフルなサイドアタック、NZ代表のCTB、ブルッカーの強くてうまいプレーにゲインを許す。日体大の闘将、フランカーの樋口真央やナンバー8向來桜子、CTB水野小暖らが賢明なタックルをするも、前半に3トライを奪われてしまった。ハーフタイム、0-22で折り返した。
日体大としては、走力で相手を上回るしかない。後半9分、古賀監督は得点を取りに行こうと、アタック力のあるバックスの谷山三菜子、高橋夏未を交代で出場させた。攻めのテンポが上がる。その5分後、絶好のトライチャンスが生まれた。
ラグビーセンスに長けたSO大内田夏月がボールを小さく蹴って、自らキャッチ、敵陣深く攻め込んだ。右に左に振る。もういっちょう大きく右オープンへ。ラインの人数は余っていたのに、ハンドリングミスでノックオン。ああ惜しい! チャンスはついえた。
◆ロック村瀬加純が、FB松田奈菜実が意地のトライ
後半30分、ラインアウトのドライビングモールからTKMにトライを重ねられ、0-29と点差を広げられた。でも、日体大の闘志は衰えない。「ここから、ここから」。日体大選手の大声が出る。直後のキックオフ。相手がボール処理を誤ったところを逃さず、ボールを奪回し、密集サイドをFWが立て続けに攻めた。最後はロックの村瀬加純がディフェンスの壁をこじ開けて、ようやくトライをもぎ取った。こういう時の村瀬のからだのねじ込みは本当にうまい!
試合後、村瀬に「ナイス! トライ」と声を掛ければ、「ありがとうございます」と頭をちょこんと下げた。そして、自分がリードするラインアウトを反省する。
「でも、今日のトライをあまりとられなかった原因がラインアウトだから。そこの精度を上げて修正して、残りの試合はボーナスポイントをとって勝ちたいと思います」
ロスタイム。点差は開けど、日体大の最後の意地である。相手の足は止まっている。一気に攻め込み、いいタイミングで右オープンに回す。高橋夏未からFB松田奈菜実にキレイなパスが渡り、右中間に飛び込んだ。12-36でノーサイド。
松田は言った。
「仲間が最後まで粘ってつないでくれたボールだったので、絶対にトライしたかった。よかったです」
そういえば、終盤、途中交代でフロントローに入った1年生の樫山純佳、八尋瑛は踏ん張った。スクラムで相手からコラプシングを奪い返した。
◆悔し涙の樋口主将「悔しかったんで…。つぎ、がんばります」
敗れたチームで一番活躍した「モストインプレッシブプレーヤー(MIP)」には、プロップ峰愛美が選ばれた。スクラムでは押されながらも、フィールドプレーで献身的な動きを見せたからだろう。いつも一生懸命。
峰は「これで終わりじゃない」と言葉に力を込めた。
「全体的に敵陣にいけない時間帯が結構あって…。敵陣にいっても、スクラム、ラインアウトがちょっと後手に回ってしまって…。次の試合までには改善していきたい」
樋口主将はペトボトルを左手に持って、右手で目元の涙をぬぐっていた。話を聞こうとすれば、また涙があふれてくる。すみません。声を絞り出した。
「悔しかったんで…。つぎ、がんばります」
◆古賀監督「ひとつひとつ、プレーの質を上げて、成長していくしかない」
ストレスフルな試合だったのだろう、通路の古賀監督の表情は疲れ切っていた。
でも、目には力がある。前を向く。決して、くじけない。中5日で立正大(11月23日・日体大G)との試合がある。
古賀監督は言葉に力を込めて、こう言った。
「チームの成長を見る上で、何もできなかったという印象はありません。最後まで試合を捨てずに、学生たちがやっていたのは間違いないのかなと思います」
課題は。
「プレーひとつひとつの質ですね。精度です。セットピースとコリジョンとハンドリングと。ひとつひとつ、プレーの質を上げて、成長していくしかないですね」
ここで、ひと呼吸。
「次は、もっと、もっと、成長した姿をお見せできるようにしたいと思います」
午後1時、通路の外のグラウンドの方から大声が聞こえてきた。
「ニッタイダイ! ニッタイダイ! ニッタイダイ!」
何かと思えば、次の日体大の男子の試合の応援の掛け声だった。
【男子 ●日体大 19-36 青学大】
さあ、男子だ。関東大学対抗戦Aグループ(1部)。日体大の試合は女子に引き続き、午後2時、キックオフされた。相手が筑波大を倒した青学大。
バックスタンドの一角には試合を終えた女子部員が全員、陣取った。高音の声援が秋風にのる。「ニッタイダイ、ニッタイダイ、ニッタイダイ」。学生らしい、いい光景だった。
メインスタンドには保護者、OBが大挙して駆け付けている。昨年度の伊藤拓哉キャプテン(自衛隊)の姿もあった。加えて、女子部員にも応援されるって、何ともありがたいことじゃないの。
◆猛タックルの大竹智也「選手権にチャレンジしないと男じゃない」
これで張り切らなければ、男じゃない。この日の日体大はとくにタックルが素晴らしかった。どんどん、低く、踏み込んでいく。タックル、タックル、またタックル。時には執念のダブルタックルも次々と決まった。黄色ライン付きの青学大の黒色ジャージをつぶしていく。
猛タックルを連発した4年生のフランカー大竹智也は試合後、こう言ったものだ。
「まだ(全国大学)選手権に対して首の皮一枚、つながっていたんで、そこにチャレンジしないと、ラガーマンじゃない、男じゃないと思っていました。からだを張ろうと心に決めていたんです」
◆痛恨の前半終了間際の失トライ。SH伏見「悔しさの味がこれまでとは全然違う」
あえて勝負のアヤを探せば、前半終了間際の失トライだったであろう。
前半終盤に青学大に先制トライを許した3分後、前半38分だった。日体大は猛反撃に転じ、敵陣に攻め込んだ。右側のラインアウトでナンバー8の岡部義大がうまくボールをキャッチし、左オープンに回す。WTBの勝目龍馬が鋭くタテに切れ込んで大幅ゲインした。タックルを受け、ゴールラインまで2、3メートルでラック。右サイドを突く。あと1メートル。またラック。さらに右サイドを突くかと思いきや、SH伏見永城は右にラインをひいたWTB勝目にパスし、さらに右ライン際のWTB古賀剛志にロングパスを投じた。
これが乱れてワンバウンドし、こともあろうか、ボールは相手ナンバー8の内藤基の胸に収まった。前のめりの日体大は逆を突かれる格好となり、内藤にライン際を100メートル近く走られてしまった。最後、FB大野莉駒が懸命に戻ったが、タックルは届かなかった。スポーツの世界、「たら・れば」は禁句ながらも、もしも日体大がここでトライを返していれば、同点だった。が、スコアを0―10とされてしまった。
伏見の述懐。
「自分たちのミスでトライをとられてしまった。自分たちのクビを自分たちで締めてしまった感じです。インターセプトされてしまって…」
でも、ここ2週間、練習でやってきたことは出せたと言葉を足した。
「悔しさの味がこれまでとは全然違います」
◆湯浅直孝HC「やろうとしたことはやっていた」
おそらく、試合の出来は今季一番だっただろう。
1週間前には練習試合で大学王者の帝京大の胸を借りた。立教大に敗れた後、練習の質量も変わった。湯浅直孝ヘッドコーチは振り返った。
「自分たちの足りない部分を補おうと、課題をひとつひとつつぶしてきたんです。エリアの取り方とか、ディフェンスのダブルタックルとか、ブレイクダウンのプレッシャーの掛け方とか。やろうとしたことは試合で出せていたと思います」
後半10分過ぎ。途中交代出場のCTB嘉藤匠悟がナイスタックル。トンガからの留学生ロック、愛称「トム」ことパエア・レワががつんと相手を吹き飛ばす。相手のパントキックをWTB勝目が捕って、ディフェンス網のギャップをついて大幅ゲイン、パスをもらったFB大野がフランカー家登正旺につなぎ、家登がまっすぐ駆け抜ける。ラックで右オープンに。ワンバウンドしたボールをロックの岸佑融が捕って突進する。ゴールライン直前でラック。嘉藤がブラインドの右サイドを突いて、右隅に飛び込んだ。
SO五味侑也が難しい位置からのゴールキックを左足で蹴り込んで、7-10と追い上げた。「ありがとう」の声がスタンドから飛ぶ。これは、イケる。本気でそう思った。その後、ワントライを加えられたが、後半22分には、相手ラインアウトをターンオーバーして、ラックからSH伏見がパントキックを上げた。青学大が処理ミス。左右に揺さぶり、SH伏見が右ライン際を上がってきたプロップ築城峻汰に飛ばしパスを投げ、築城がプロップらしからぬスピードで駆け、左ライン際に飛び込んだ。12-17と追いすがった。
◆痛かったラインアウトのミス。萩原一平主将「しっかり投げ込んで修正する」
さあ、勝負のラスト20分である。
日体大が勢い付く。でも、敵陣のマイボールラインアウトではフッカー萩原一平主将のノットストレートのミスでチャンスを逃す。逆に相手ボールのラインアウトからはトライを簡単に奪われてしまう。それでも日体大はあきらめない。
ラスト3分の後半37分、マイボールのラインアウトをロック岸佑融がうまく処理し、またも左右のオープン攻撃を繰り出す。走る。つなぐ。走る。いいテンポで生きたボールが出る。負傷から復帰したFB大野莉駒が切れ味鋭いダッシュでゲインし、右ライン際のWTB古賀にパス、古賀が右から中央に回り込んでトライした。
これで19-22。またも3点差に詰め寄った。スタンドの声援はもう叫び声に近かった。
「ニッタイダイ、ニッタイダイ、ニッタイダイ!」
でも、最後の最後にPKを与え、ラインアウトからのトライを献上した。立て続けに2本。最後は青学大のパワーに屈した格好だった。
19-36でノーサイド。これで日体大は6戦全敗、1部の7位以下が確定し、対抗戦1部、2部の入れ替え戦に回ることが決まった。残念無念。
萩原一平主将は「自分のスローが」と嘆いた。
「大事なところで(ラインアウトのミスを)してしまっているんで。フッカーとしての役割を任されているところなので。練習でしっかり投げ込んで修正するしかありません」
◆秋廣秀一監督「勝てる試合を落としました」
秋廣秀一監督はぽつりと漏らした。
「勝てる試合を落としました」
勝機はあっても、敵陣に入って、マイボールのミスがこれほどあっては、勝つことはできまい。同監督はこう続けた。
「敵陣に入ってのラインアウトを何本かとれていれば…。ノット(ストレート)はちょっと…。でも、やってきたことが形にようやくなってきました。あとは精度ですね。敵陣にはいっての回すところ、ハンドリングエラーがなくなれば。もう一回、やってきたことを徹底して、(対抗戦グループ)最後の慶応にぶつかりたい」
湯浅HCはこうだ。
「やればできるということを改めて再認識できたと思います」
次の慶大戦は?
「勝たないと何も始まらない。勝ちます」
◆燃える闘魂、大竹智也「ようやく戦うチームになれた」
この日のMIPにはトムが選ばれた。ピッチでのインタビュー。スタンドの観客に向かって、マイクに言った。緊張で声が上ずっている。
「きょうの応援、ありがとうございました」
大活躍のFWリーダー、ロックの岸は泣いていた。
「やっぱり、ミスが…。自分たちのミスがとくに前半は多かったです」
攻守に暴れたフランカー岡部もまた、泣いていた。
「チームの出来も雰囲気も、間違いなく、一番、よかったです。だけど、また勝ち切れない。ニッタイの走り勝つラグビーが後半、できたんですけど、モールもセットプレーもまだ、相手の方が一枚上手でした。少し修正して、残る試合を勝ち切るようにしたい」
有言実行。再び、燃える闘魂の大竹は言った。
「みんな、きょうはからだを張っていました。これでやっと戦術的な反省もできます。そのチームとしての成長が、ようやく戦うチームになれたと思います」
やっとで戦闘集団と化した日体大は12月1日、対抗戦最終戦として、日本のラグビー・ルーツ校、慶大に挑戦する。意地にかけて、無勝利では終われない、絶対に。
(注:画像は、女子が善場教喜さん、男子は大野清美さんが撮影)