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2024.12.16.

まっちゃん部長日記 @「こころひとつ。日体大が成蹊大に快勝し、1部残留」

 ああ部員たちの笑顔が目にしみる。グラウンドで歓喜に沸く選手たち、そしてスタンドで雄たけびを上げるノンメンバーの仲間たち。日本体育大学(Aグループ8位)は『チーム一丸』で成蹊大(Bグループ1位)に快勝し、Aグループ(1部)残留を決めた。

 土曜日の12月14日。雲ひとつない、澄み渡った青空の下、ビュービューと強烈な赤城おろしが吹き荒れる埼玉・熊谷スポーツ文化公園ラグビー場。ラグビー関東大学対抗戦の入れ替え戦は40-8で終了した。その瞬間、スタンドの部員や保護者からの掛け声が寒風に乗る。

 「いいぞ! いいぞ! ニッタイダイ!」。

 「4年生、ありがと~」

 「ブラボ~!」

 

◆出陣前の涙の部歌。これぞ青春、これぞラグビーの美徳

 

 降格か、残留か。

 「天国か地獄か」「生きるか死ぬか」、運命の入れ替え戦である。

 3年連続で同カードとなった。日体大は2年前、成蹊大に敗れて2部に降格し、昨年は成蹊大に雪辱し1部に復帰していた。いわば因縁の対決。

 両チームの選手の気分が高揚する。意地と意地、プライドとプライドがぶつかる。極度の緊張感の中の試合前のタックル練習。“炎のタックルマン”、4年生フランカーの大竹智也は唐突に、笛を吹いていた湯浅直孝ヘッドコーチ(HC)に突き刺さった。

 湯浅HCが「痛くて」と苦笑交じりに述懐する。

 「この2週間、準備がすごくよかったんです。だから、最後に自分たちがやりたかったラグビーを出せたのかなと思います。メンタル的にも相当プレッシャーをかけてきました。とくに4年生は“絶対に負けられない”“(1部残留を)3年生以下に遺さないといけない”と、すごいプレッシャーを感じていたと思います」

 試合前のロッカールーム。「日体魂」「突撃!」「仲間を信じて」「勝つしかない」…。白い壁には保護者や仲間たちからの墨字の檄文が貼られていた。出陣の直前、円陣を組んで部歌を大声で歌う。ラストゲームに挑む4年生だけでなく、3年生以下の選手も、サポートメンバーも感極まって涙を流していた。

 「おお、おお、ニッタイ♪ ニッタイの勇者♪」

 試合に出場しないサポートメンバーだった4年生の海原一郎がしみじみと漏らす。日体大OBの父親はまたも福岡から応援に駆け付けていた。

 「僕も泣きました。やっぱり、これがラグビーのよさだなと思います。みんなのこころがひとつになったのです」

 

 ◆「イケる」と確信をつかんだファーストスクラム

 

 コイントスで負けた日体大が、風下の陣地からキックオフ。

 ラグビーはやはり、フォワード戦、とくにスクラムが命だろう。

 1部でもまれてきたチームと、2部で白星街道を走ってきたチームとの違いはここに顕著に出る。前半5分のファーストスクラム。日体大ボールながら、組んだ瞬間に右プロップが崩れ落ち、日体大はコラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられた。

 「でも」と、フッカーの萩原一平主将は思い出す。

 「ペナルティーをとられたんですけど、セットアップ(構え)とヒットの部分で“イケる”との確信を得ました。次から押していこうとの意思統一ができました。ことし1年、Aでは自分たちの思うようなスクラムが組めてなかったんですけど、今日は自分たちが毎日、練習で積み重ねてきたことを試合で出せたんじゃないかと思います」

 日体大はまず、FW勝負を挑んだ。

 スクラムを押す、コラプシングをもぎ取る。安定したスクラムとラインアウトで優位に立ち、FWがコンタクトエリアで圧倒する。そして、チャンスとみれば、バックスを走らせる。ことしのスローガン、『GUSH』(どっと流れ出る、噴出する、湧き出てくるイメージ)がようやく試合で体現された。

 

 ◆フッカー萩原主将「応援がだいぶ、すごかった」

 

 勝因は加えて、ひたむきなタックルだった。前半序盤、驚異の仕事量を誇る大竹の猛タックルのターンオーバーからチャンスをつかみ、エースFBの大野莉駒らの鋭利するどいランで、敵陣深くに攻め込んだ。相手ポスト正面の30メートル地点あたりでペナルティーキックを得ながらも、PGは狙わず、これを右のタッチに蹴り出した。トライ狙いだ。ラインアウトからのドライビングモールでごりごり押し込み、萩原主将が右中間にトライした。これで主導権を握った。

 萩原主将は、「応援がだいぶすごかったです」とスタンドの仲間に感謝した。

 「2年前の入れ替え戦(敗戦)にも出場したけれど、その時は成蹊さんの応援の方が大きかったんです。きょうは自分たちの応援がうるさいぐらいで。そこがだいぶ違いました」

 

 ◆笑顔の1年生ロックのトム「ボールを持って走るのは気持ちいい」

 

 前半29分には、FWが密集サイドを立て続けに攻め、最後は1年生のトンガ人留学生、愛称「トム」ことパエア・レワがパワーでトライをもぎとった。前半終了間際にも、トムがサイドを突いて、最後にからだをひと伸びさせてインゴールに飛び込んだ。これが大きかった。

 前半を19-3で折り返した。特筆すべきは、反則がわずか3つ(相手は5つ)だったことである。トムが笑う。

 「ボールを持って走るのは気持ちいいです。これまでスクラムでやられてきたけど、今日のフォーカスはスクラム、すごくよかった」

 

 ◆SO五味「風上の後半はまず、エリアをとりにいこうと」

 

 風上の後半はキックでエリアを稼ぎにいった。

 スタンドオフ(SO)の五味侑也は言う。

 「風下の前半は風が強いので基本継続で攻めていこうとし、風上の後半の時はキックが伸びるので、どんどん早めにキックでエリアをとっていこうと考えていました」

 トムやフランカー加登正旺、途中交代出場の當山恭右が好ジャッカルを決める。後半13分、前に出てのタックルからターンオーバーに成功し、準備したサインプレーからプロップ吉田伊吹がビッグゲイン、ラックから一気に右に振って、SO五味が右タッチライン際のWTB古賀剛志に長いパスをつなぎ、そのまま右隅に飛び込んだ。

 もう、イケ、イケ、ドンドンだぁ。後半20分にはまたもラインアウトからのドライビングモールで萩原主将が抑えてトライ。

 成蹊大に1トライを返された後の後半32分は、大竹の猛タックルで相手CTBのキックコントロールを乱してボールを奪取、左右に散らしたあと、SO五味が絶妙のゴロキックをインゴールに転がした。これを、バックアップの相手選手を追い抜き、ナンバー8岡部義大がエンドラインぎりぎりでボールを押さえてトライした。

 SO五味が胸を張る。

 「これまでは自分がエリアをとることができなくて、試合には負けてしまっていたので、今日はまずエリアを取りにいこうと、この2週間、意識して練習してきました。それが、うまくできたのかなと思います」

 最後はPKを途中交代出場のSO石谷陸翔がタッチラインの外に蹴り出して、ノーサイドの笛が鳴った。

 

 ◆ハードタックラーの4年生FL大竹「満足できるプレーができた」

 

 4年生の大竹はこれでラグビーからは離れる。「完全燃焼」に満面笑顔だった。

 「僕自身、ラグビーのプレーが最後と言うことですごく気合が入っていました。自分の中で満足できるプレーができてよかったです」

 試合後、ラグビーマガジン誌のライターに「なぜタックルがすごいのですか?」と聞かれ、大竹はこう、応えた。

 「高校(神奈川・桐蔭高校)時代、藤原(秀之)監督に武器を持てと言われたので、僕は小さいからだながら、タックルを磨いてきたのです。高校から大学まで磨き上げてきた結果をきょう、試合で出せたのかなと思います」

 秘訣は?

 「僕の中では、ボールが宙に浮いている間に相手との間合いを詰めて、相手より低く、相手がこちらにヒットする前に仕掛けることをいつもイメージしてタックルしています。からだの大きな相手にヒットされたら、やっぱり負けるので、自分が先に、自分の間合いに入れば勝てるという自信があります」

 

 ◆4年生ロックの岸も大暴れ「チームがひとつになって勝てた」

 

 そして、大暴れしたFWリーダーの4年生ロック、岸佑融は言葉に安堵感をにじませた。

 「勝てて、ホッとしています」

 責任感が人を育てる。岸はこの1年、人として選手として大きく成長した。卒業後はリーグワンのチームでプレーする。「団結の勝利」を強調した。

 「対抗戦で7戦とも勝てなくて…。でも、最後、残り少ない期間、4年生を中心に僕らメンバーを完全にサポートしてくれました。4年生の団結と、それについてきた後輩たちの団結力で、チームがひとつになって勝てたということですね」

 

 ◆4年生プロップの藤田「スクラムのたび、毎回、ほえていた」

 

 陰の勝利の立役者、怪我から復帰した4年生プロップ、藤田幹太は「ひと安心という感じですね」と顔をほころばせた。福岡から父も応援に駆け付けた。

 「今日はスクラムに賭けていました。スクラムの度、毎回、ほえていました。いくぞ! いくぞ!と喝を入れて」

 藤田もまた、2年前の入れ替え戦(敗戦)に出場していた。昨年の入れ替え戦は怪我で出られなかった。だから自分自身が試合に出て勝つということにこだわった。卒業後はこちらもリーグワンのチームでラグビーを続ける。

 「勝って、大学生活を締めくくれてよかったです」

 

 ◆4年生SHの伏見「大学選手権に出場できなかったことにちょっと悔いが残る」

 

 4年生のSH伏見永城は的確なボールさばきを見せた。「いい終わり方をしたかったので、それができてよかったです」と言った。卒業後は社会人クラブでラグビーをつづける。「ただ」と顔を少しゆがめた。

 「やっぱり今年の目標だった大学選手権に出場できなかったことに、ちょっと悔いが残ります。(1部に)残留できて、大学選手権出場ののぞみを来年に託すことはできました。次につなげることはできたかなとは思います」

 

 ◆故障退場の4年生ウイング勝目「最後までプレーをしたかった」

 

4年生ウイングの勝目龍馬は前半終了間際、コンタクトプレーで腕を傷め、故障退場した。 試合後、左腕を白色の三角巾(アームホルダー)でつるしていた。痛々しい。

 こちらも少し悔しそうだった。卒業後、社会人クラブでラグビーを続ける。

 「最後の最後に怪我をするとは思っていませんでした。(1部に)残れたのはチームとしてうれしいことなんですけど、自分としては悔いが残ります。最後までプレーをしたかったです」

 

 ◆4年生ロック當山「1部に居続けることが一番大きい」

 

 途中交代出場の4年生ロック、當山恭右はこう言って、ホッとした表情を浮かべる。

 「1部に居続けることが一番大きいと思うので、それを最後に後輩たちに残せてよかったなと思います。2部にいる間は、(1部の)立教さん、青学さんとの差が開いていくと思うので、それを防ぐことができたのかなと思っています」

 

 ◆4年生プロップ工藤「試合に出られない人たちのことも思いやる」

 

 途中交代出場の4年生プロップ、工藤隆誠はこうだ。下級生の時は怪我でほとんどプレーができなかった。

 「同期や先輩、後輩が、人格のいい人が集まっていたので、最後までプレー出来ました。一番大事にしてほしいのは、出られない人たちのことを思いやることです」

 

 ◆副将の4年生SH日髙「応援してくださった人のため、チームのために」

 

 副将の4年生SH、日髙柊は終盤10分間、プレーした。宝物の10分間。

 「いままで練習してきたことを全部出し切るつもりでした。それと、応援してくださった人のために、チームのために頑張ろうと思ってプレーしました」

 

 ◆秋廣監督「ほんとうに苦しい1年間だった」

 

 試合後の記者会見。

 秋廣監督は開口一番、こう言った。

 「この1年間、ほんとうに苦しい1年間でした。でも、最後にやっと、勝つことができました。この1勝は重い。Aに残ることはとても大事なことであって、今日はキャプテンを中心に4年生がまとまってくれました。ほんとうに感謝しています」

 ひと呼吸おき、こう続けた。

 「1年間、Aで戦って、日体大の現在地というか、対抗戦の上位クラスには対抗できないというのがわかりました。言葉ではなく、からだでよくわかりました。この厳しい経験を来年に生かしていきたい。」

 

 ◆渡邊徹コーチ「ここには二度とくるものか」

 

 渡邊徹コーチは疲れ切った表情でこう、漏らした。

 「菅平高原じゃないですけど、ここ(入れ替え戦)には二度とくるものか。しんどいです。選手たちがほんと、80分間、集中力を切らさずに戦い抜いてくれました」

 再び、湯浅HC。

 「苦しかった、ええ、苦しかったです。学生スポーツだなというところもあって、4年生がまとまらないとやっぱり苦しいと実感したシーズンでした。最後にはやっと、まとまりましたね」

 

 ◆静かな1部残留の安ど感。村中OB会長「今日はいい試合でよかった」

 

 入れ替え戦の勝利後、昨年のような、秋廣監督や主将の胴上げはなかった。

 昨年はあったラグビー場そばでのホテルでの祝勝会もなかった。派手な喜びの爆発はない。静かな1部残留の安ど感の方が大きかった。

 試合終了から1時間半後。暗闇のラグビー場の外に日体大ラグビー部員の輪ができていた。日体大OBや保護者も輪の外を囲む。

 OB会の村中宏行会長から寄付金の目録が部長に渡された。

 伝統あるクラブだもの、ご年配のOBから見たら、歯がゆいことも多々、あるだろう。でも、凍てつく寒さの中、村中会長は温かい声で言った。

 「今日はいい試合でよかった。来年はもう、ここ(入れ替え戦)にこなくていいようになってください。それが、できるチームだと思います。応援しています」

 その後、保護者代表として萩原主将の父親から、息子の主将に寄付金の目録が渡された。ほほえましい光景だった。

 いろいろな人のサポートを受けて、日体大ラグビー部がある。1部残留を決め、学生も、OBも、保護者もこころがひとつになった。

 その学生スポーツならではの光景が目にしみるのだった。

(筆:松瀬学/ 写真:岸健司氏)

 

 

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