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2025.11.10.

まっちゃん部長日記⑥本気の日体大、好調筑波大に翻弄されて完敗

 冷たい雨に濡れる紅葉、悔し涙にくれるフィフティーン。連敗中の日本体育大学は奮起一番、好調筑波大に挑んだが、勝負のディフェンスが混迷を極めた。15トライを奪われ、7-99で大敗した。ああ…、これで5連敗。

 「完敗です」。日体大の秋廣秀一監督は開口一番、そう漏らし続けた。

 「ディフェンスで勝負しようと思っていたんですけど、筑波がうまかったですね。一人ひとりがまっすぐあたってこないで、ずらしてきました。こっちが踏み込めないので、受けのタックルになってしまいました」

 

 ◆大野莉駒キャプテン『本気』

 

 雨の9日。日中の最高気温が13度。リーグワンのクボタスピアーズ船橋・東京ベイの本拠、えどりくフィールド「江戸川陸上競技場」だった。この地は、2021年、日体大が筑波大を破り、全国大学選手権出場を決めたところでもあった。

 立ち上がりは、そう悪くはなかった。先制トライを許すも、敵陣ゴール前での相手ボールのファーストスクラムではぐいぐい押し込んでコラプシング(故意に崩す行為)の反則をもぎとった。うまくヒットし、とくに右プロップの吉田伊吹がいい姿勢で前に出て行った。日体大のスクラムのカタチが見えてきた。

 ただ、この好機は、ハイパントのボールを奪回できず、生かすことができなかった。前半9分。マイボールのラインアウトを相手にターンオーバーされ、右オープンに回された。一度、二度、ポイントを作っては、順目で右へ。筑波大のラインがスピードに乗る。ピンチ、そう思った瞬間、「本気」をモットーとするウイングの大野莉駒キャプテンが狙いすましたようにインターセプトを決めた。

 大野主将の述懐。

 「はい、狙っていました。あえて外のスペースをつくって、そこに投げさせたんです。なんだか、得意のプレーになっているかもしれません」

 そこは、大野主将のラグビーセンスの成せるワザだろう。一気に60メートルを走り切り、左中間にトライした。大野主将が自らゴールキックを蹴り込み、7-5と逆転した。

 大野主将は、2試合連続の「モストインプレッシブプレーヤー」に選ばれた。

 そういえば、グラウンドの日体大ベンチには全部員の決意の寄せ書きのラグビーボールが置かれていた。ど真ん中には、大野主将のマジックで書いた黒い文字がこう、あった。

 『本気』

 

 ◆接点、ブレイクダウンで後手を踏む

 

 だが、日体大はその後、防戦一方となった。スクラムの要、プロップ吉田が前半終盤、けがして途中退場したのは痛かった。スクラムが押され始める。ラインアウトも劣勢に回った。自陣にいる時間が長くなれば、どうしても受けに回ることになる。

 筑波大はさぞ、こちらを研究してきたのだろう。まず接点で差し込まれた。相手はフィジカル、パワーを前面に出して、ブレイクダウンの周辺から崩しにかかってきた。雨でウエットなグラウンドだったことも不利に働いた。足を踏ん張れないのだ。

 タックルが外される。思うようにディフェンスラインを前に出せない。混沌、混迷、混乱。大野主将は「自陣にいて、ディフェンスをしている時間が長過ぎました」と悔やんだ。

 「(タテを突いた後)相手が外に攻めてくるのに対して、自分たちは前に出られずに受けに回って…。1人目が切られちゃうと、どうしても外の人が内のディフェンスをしないといけなくなってしまう。自分たちは(外に)回れないみたいな感じになって…」

 オフサイドなどペナルティーキックは12個(相手は7個)を数えた。

 

 PMOの筑波大・大内田「日体大をリスペクトして、しっかり準備」

 

 印象的な言葉がある。この試合のプレーヤーオブザマッチ(POM)は筑波大のセンター、大内田陽冬(あきと)だった。福岡・修猷館高校卒業の4年生。実は同じく修猷館卒の日体大ラグビー部女子1年の大内田葉月の兄となる。大内田は試合後の表彰式でこう、言った。

 「帝京大戦(〇18-14)に続き、この2週間、相手をリスペクトして、しっかり準備をしてきた結果が表れたと思います」

 

 ◆湯浅HC「修正する点は見えている」「勝つしかないです」

 

 結局、15トライを奪われた。とくにロスタイムのラスト5分で、3トライを追加されるとは。最後まで勝負をあきらめるな、である。

 湯浅直孝ヘッドコーチ(HC)も完敗を認めざるを得なかった。

 「ブレイクダウン周りが徹底されていた。自分たちが前に出て止めるディフェンスをキーワードにしていたんですけど、ブレイクダウンで差し込まれて…。自分たちのリズムを作れませんでした」

 しかも、相手のハーフ団がうまかった。こちらは、キックパスを注意しなければならなくなる。日体大フィフティーンは試合中、どうすればいいのだ、と混乱していただろう。湯浅HCは続ける。

 「帝京大戦のように、何をやってもうまくいかないシチュエーションに入ってしまったのかな、と思います」

 それでも、日体大フィフティーンはからだを張った。相手に挑みかかる気概は見えた。フランカー家登正旺のスティール、交代出場したナンバー8島澤桜太の猛タックル、フランカー岡部義大のこぼれ球への反応、ロック石塚翔真のラインアウトでの奮闘、ロック逢坂侑大のディフェンスモールでの踏ん張り、センター鈴木一平の渾身のタックル…。

 それらが、ひとつになれば。

 湯浅HCは「修正する点は見えています」と言い切った。

 「僕らはきついトレーニングをしてきました。走れてないわけじゃない。どこの接点で狙いにいくのかをもっと明確にしないといけません」

 対抗戦は残り2つ。ひと呼吸おいて、言葉に力を込めた。

 「勝つしかないです」

 木下剛スクラムコーチはこうだ。

 「残っているメンバーでやり切るしかありません」

 

 ◆秋廣監督「2つとも勝たないといけない」。「徹底」「狂う」で

 

 秋廣監督も同じだった。

 「ここで落ち込まず、青学、立教、2つとも勝たないといけません」

 では、どうやって勝つのかだろう。

 戦力で劣るチームが相手を倒すためには『選択と集中』しかあるまい。

 やるべきことを『明確』にする。タックルならタックル、ダブルタックルならダブルタックル、ブレイクダウン勝負ならブレイクダウン勝負、ハイパントならハイパント、あるいはレッグドライブならレッグドライブ。

 いわば戦術の『徹底』である。やろうとすることをやりきるしかあるまい。

 そして、プライドを持って、『狂う』ことだろう。

 狂ったように走る、狂ったようにタックルする。

 100%ではなく、120%の力を振り絞るのだった。

 試合後、いつも陽気なロック石塚がロッカー室から出てきて廊下の隅っこで大泣きしていた。おっさん部長も胸が熱くなった。

 シーズンは、泣いても笑っても、あと1カ月。

 若者よ、青春に悔いを残すな!

<文:松瀬学、写真:大野清美さん>

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